イタリアの観光業を盛り上げるために、新インフルエンサーの「ヴィーナス(Venere)」が誕生!賛否両論を巻き起こした広告キャンペーンとは?

イタリア観光省イタリア政府観光局が、新たな観光キャンペーン「Open to Meraviglia」の広告塔に大抜擢したのは、ルネサンスの巨匠、サンドロ・ボッティチェリによって描かれたヴィーナスだ。「どのヴィーナス?美少女戦士セーラームーンの話?」と思ったあなたも、某イタリアンファミリーレストランで彼女のレプリカを一度は目にしているはずだ。この官能的なボディラインや美しくなびく髪を持つ、イタリアを象徴する女神が、この21世紀には声を手に入れ、インフルエンサーとしてローマコロッセオをチャリンコで訪れる日が来るとは。ボッティチェリも、さぞかし腰を抜かしていることだろう。

900万ユーロ(13.6億円相当)という多額の資金が費やされたこのキャンペーンでは、最新のAI技術を駆使したバーチャルのインフルエンサーとして現代にやって来たヴィーナスが、イタリア各地にあるアートの都や 有名な観光地、文化遺産、伝統的なイタリア料理やワインを楽しむ様子を全世界に発信していく。どうやら、イタリア観光省観光局の間では、新たなインフルエンサーであるヴィーナスの流行 ファッションや、インスタ映えするセルフィー(現代の合成技術の賜物)が世代を超えて多くの人の憧れの的になるに違いない!と、期待が寄せられているようだ。そう、皆いつだってポジティブ。それがイタリアだ。

キャンペーンのコンテンツは、公式ウェブサイトやインスタグラム(@venereitalia23)をはじめ、イタリア国営航空会社のフライトでプロモーションビデオが放送され、 ヨーロッパにおける数々の鉄道駅、世界各地の主要な空港やデジタル媒体でも発信される予定だ。そんな重要なキャンペーンだが、まさかのミス連発で突っ込みどころが満載!イタリアの素晴らしさを宣伝するはずのビデオのワンシーンに、フリー素材から拾ってきたようにも見える、隣のスロベニアでワインを楽しむ若者の映像が使用されていたかと思えば、公式サイトの英語訳では、(某自動翻訳機に頼り切ってしまったのか)固有名詞で訳す必要のない都市名まで翻訳され、南イタリアの都市「ブリンディジ」は「Toast(トースト)」、アドリア海沿岸に面しているマルケ州の都市「フェルモ」は「Stillstand (静止)」と書かれていた。(名詞の「Brindisi」は「トースト」、動詞の「Fermo」は「静止する」という意味だが、これは都市名としての「千葉」を「milion leaves(千の葉っぱ)」と訳してしまうようなものだ。)現在は修正済みとはいえ、流石にお茶目すぎるだろう・・・という気もしなくはないが、これは広告費に全ての予算を回すための制作費の削減のストラテジーなのか、もしくは全ての作業に人間の知能を使用せず、AI化したことをアピールするためだったのか、それとも単純に楽をしたくなってしまったのか、真相は闇の中だ。

さらに、普段から山積みの社会問題に悩まされているイタリア国民の間では、この「美しきイタリア」のイメージキャンペーンと現実のギャップを皮肉ったパロディ画像が、ネット上で溢れんばかり拡散されている 。ゴミ収集車が稼働せず、道路に乱雑に放置されたゴミ山の前でセルフィーを撮るヴィーナスや、イタリア南部へと辿り着く難民のボートに乗っているヴィーナスまで登場する始末。もはや、バーチャルであってほしい現実の数々のワンシーンを捉えた画像が印象的だ。

多くのイタリア人がこの話題を大体的に取り上げ、パロディ画像を拡散した結果、 ヴィーナスのインスタグラムアカウントは、開始ヶ月経たないうちに、多くのフォロワーを獲得し、200Kに迫る勢いだ。多額の予算を費やしたにも関わらず、初歩的なミスの連発でスキャンダラスに取り上げられながらも、気分屋でどこか抜けている人間味のあるイタリア人の魅力と、観光客が知り得ないディープなイタリアが見え隠れするのが、また味わい深い。このキャンペーンはそのような意味で、予想以上の成功と言えるのかもしれない。