1956年に山梨県で生まれた深澤直人(ふかさわ・なおと)は、無印良品の壁掛け式CDプレイヤーや可愛らしいデザインの携帯電話「INFOBAR」等、数々の代表作を生み出したプロダクトデザイナー。80年代後半に渡米しキャリアを積み、2003年に東京でNAOTO FUKASAWA DESIGNを設立。日立やパナソニック等、日本のブランドのみならず、マルニやアレッシ、ボッフィをはじめとする世界的なブランドとのコラボレーションを手がけ、『デザインの輪郭』(TOTO出版)や『デザインの生態学-新しいデザインの教科書』(東京書籍)等、デザインに関する複数の書籍を出版している。

ロイヤルデザイナー・フォー・インダストリー(英国王室芸術協会)の称号を持ち、ニューヨークノグチ美術館が創設した第5回「イサム・ノグチ賞」を受賞するなど、その独自の思想と表現方法は、国を超えて高く評価されている。人間の無意識且つ自然な振る舞いに着目した、シンプルで美しく、力強いデザインが特徴的で、現在は日本民藝館館長、多摩美術大学統合デザイン学科教授、日本経済新聞社日経優秀製品・サービス賞審査委員、毎日デザイン賞選考委員等を務め、多岐にわたり活躍中。2022年の春には、職人技術にフォーカスした国際展示会「ホモ・ファーベル(Homo Faber Event)2022」にて、人間国宝12名の作品を紹介する特別展「12 Stone Garden」のキュレーターを務めるなど、国際的に最も影響力のある日本人プロダクトデザイナーの一人。

ワカペディアの見る深澤直人

 現代アートは常に身近に感じてきたけれど、デザインに関してはまだまだ学ぶべきことが沢山あるワカペディア。そんな中、世界的に有名なプロダクトデザイナーである深澤氏に「ホモ・ファーベル2022」の会場でインタビューする機会があり、「このチャンスを逃すわけにはいかない!」と必死で徹夜勉強した事は、この春の思い出の一つ。深澤氏に初めて会った時は「なんだかインテリで気難しそう・・・」という印象だったけれど、いざ話を聞いてみると、とても親切に分かりやすく説明してくれた。何よりワカペディアが感動したのは、世界各国の有名マガジン数十社によるインタビューでスケジュールがぎっちり詰まっているにも関わらず、一社一社丁寧に対応し、笑顔まで見せていた彼の人柄と、デザインに対する熱意だ。見た目がオシャレなオブジェを家に置きたいと思ったことは何度もあるけれど、シンプルなのに心地よく、美しく、それでいて自然と心が惹かれるデザインに出会わせてくれたのは、深澤氏が初めてだ。さぁ、お喋り好きなワカペディアがネタバレしすぎないうちに、貴重なインタビューをチェック!

ワカペディア: 深澤さん、こんにちは!ホモ・ファーベルの開催初日からほぼ毎日会っていますね!「またワカペディアか」とうんざりしていないで下さいね(笑)

深澤直人:  毎日元気をもらっていたよ。ところで、デザインの勉強はしてきたかな?(笑)

ワカペディア: す、少し!むしろ、今日は深澤大先生から色々学ぼうと思って、頭の中のスペースを残してきました!(笑)早速ですが、深澤さんのデザインは、シンプルでミニマルに感じられました。やっぱり日本文化が影響しているんですか?

深澤直人:  まぁ、日本人だからね。でも、デザインする上で大切な事は、人間そのものにフォーカスすることだと思うね。国や文化にとらわれず、世界中どこでも仕事をできるようにすることが、デザイナーとしての役割なんじゃないかと思うよ。

ワカペディア: 「生活の中に潜む無意識をデザインに活かす」ことがコンセプトと聞きましたが、具体的にどのようなデザインで、またどのようなことからインスピレーションを受けましたか?(インテリ風にドヤ顔で)

深澤直人:  ちゃんと勉強してきたね!(笑)人間は「考えること」の合間に、歩くとか食べるとか寄りかかるっていう行動を、無意識にしているでしょう?特に考えてはいないけれど、自然と一番いいところに寄りかかったり、居心地のいい場所に立ったり。それは、基本的に人間に備わっている機能のおかげなんだ。だから、「あなたは何を考えていて、何が好きですか?」と考察するより、人間が自然に取る行動から取り入れた方がいいよね、ということ。デザインは刺激を与えることだとずっと考えられてきたから、そう考える人は少ないんだけどね。でもデザインとは、何も考えなくても、思わず手に取ってしまうようなものなんじゃないかな。

Naoto Fukasawa x Alessi – Itsumo Cutlery

ワカペディア: なるほど。「人間らしくいること」に寄り添ったデザインが、人を無意識に安心させてくれるのかもしれないですね。ところで、深澤さんが思うアートとデザインの境界線は何ですか?

深澤直人: デザインは人のためになる道具を作ることに徹するもの。アートは人に与える「刺激」だけど、それが美しいか、または良いか悪いかは関係ないもの。でも、デザインは美しくなければいけないし、良くなければいけないんだ。

ワカペディア: 考えたことなかった!確かに、綺麗なデザインじゃなかったら家に欲しくないかも。ちなみに、ご自身のデザインにはどんなメッセージを込めていますか?

深澤直人:  わざわざ説明しなくても、見たり、使ったりした瞬間にわかることが一番重要だから、メッセージはあるけどないな。でも物と使い手の関係が美しいことが大切なんだ。例えば綺麗な椅子は、その人を綺麗に座らせてくれるみたいにね。

ワカペディア: なんだかアートの哲学みたいですね!(笑)ちなみに、イタリアもデザインで有名ですが、イタリア日本のデザインの違いはありますか?

深澤直人:  イタリアは考え続け、良いものを哲学的に追求し続けるよね。日本は自分たちでアイデアを生み出すよりも、応用するのが上手だね。良いアイデアをちょっとずつ色んなところから引っ張ってきて作り上げるっていう感じかな。

ワカペディア: そんなイタリア日本だけでなく色々な国の職人や伝統工芸が集まる「ホモ・ファーベル2022」、今回のテーマである「ヨーロッパと日本の人間国宝」について教えてください!

深澤直人:  ミケランジェロ財団が主催する「ホモ・ファーベル」は、アルチザンと呼ばれる職人らによる優れた伝統技術を次世代に残し、デザイン界との結びつきを強化することを目的とした国際展覧会だよ。この「ホモ・ファーベル」で日本の人間国宝が取り上げられた経緯として、世界の職人や伝統職人技術にフォーカスした時、日本の人間国宝がとても重要な存在だということに多くの人が気づいたところがスタートなんだと思うよ。そんな日本の人間国宝の技術を伝える際、日本とヨーロッパ両方の観点を持つ人が間に入ることで、日本の職人技術の素晴らしさをヨーロッパの人に分かりやすく伝えられるんじゃないかということで、イタリアのデザインを何度か手がけたことある僕に話が来たんだ。まだ2回目の開催だけど、可能性をとても感じるし、そんな展覧会でキュレーションを担当できるなんて、とても光栄だね。

12 Stone Garden Curated by Naoto Fukasawa – Homo Faber Event 2022

ワカペディア: さすが!深澤さんのキュレーション、各国のジャーナリストに大好評でした!キュレーターを務めることは多いですか?

深澤直人:  これまでも他の展覧会のキュレーターを務めてきたけど、専門ではないよ。でも、美しい物を見抜く目はあるな。それがなければデザイナーは務まらないからね(笑)

ワカペディア: とても素敵なキュレーションでした!最後に、今後手がけてみたいプロジェクトやデザインはありますか?

深澤直人:  日本では消費者に向けてのデザインではなく、公共のものや共同空間のデザインに力を入れたいかな。例えば、みんなが通る並木道にどんな木を植えたらいいかを決めるのも、デザインなんだ。もしいつも使っているエレベーターやエスカレーターが、ある日突然何だか綺麗にデザインされていたりしたら、「あれ?」って思うでしょ?このちょっとした「あれ?」という瞬間が、人間を幸せにしているんだと思う。幸せとは、どこかに旅して、美しい絶景を見て、感動することだと思っている人が多いけれど、その本質は、いつもより少し上質な快適さや心地良さを感じたりする、日常の中にあるちょっとした瞬間なんだと思うよ。

ワカペディア: 深澤大先生、今日は勉強になりました!ありがとうございました!

インタビューを終え、イリーカフェのコーヒーを飲みながら、今日の「授業」を振り返るワカペディアチーム。人々がほっとした気持ちに包まれるような空間作りや、生活の中にある「普通」を少し上質なものにすることが、幸せに繋がるという深澤氏の哲学は、世界中の人を魅了するデザインの秘訣であり、今を生きる私達へのメッセージのようだ。

だからこれからは、無意識に反応する「美しいもの」を大切にし、ためらうことなく好きなものに囲まれて過ごそう。心踊るデザインを求めよう。そうすれば10年後、ちょっと上質な幸せを味わい続けた私達は、今よりももう少し、自分の人生を好きになれるかもしれない。

Hitachi Elevator – Naoto Fukasawa

Description & Interview: Sara Waka

Edited by: Wakapedia Japanese Team