jalou-185387-1ジャルー・メディアグループは、パリに拠点を置き、フランスではファッションやアート等をはじめとした12種の雑誌を発行するメディアグループ。世界的に有名なファッション雑誌『L’Officiel Paris(ロフィシャル・パリ)』を発行していることでも知られている。1921年に設立され、『L’Officiel 』はファッション雑誌の中でも最も歴史のあるマガジンの一つとなり、瞬く間に業界での地位を確立。 今日では21ヶ国語に訳され、全五大陸で出版されるインターナショナルファッション誌である。当グループは、30年に渡って生粋のジャルー一族が経営を担い、彼等の熱心な取り組みにより、ロフィシャルの名声と影響力は不動のものとなった。更にロフィシャルは、クロード・モンタナ、クリスチャン・ラクロワ、ジャンポール・ゴルチエヨウジヤマモトをはじめ、雑誌を通して多くの有名デザイナーを輩出している。 60年代にロフィシャル社の代表となった、ジョルジュ・ジャルーに加え、70年代後期に、彼の子供達であるローラン、マキシム、マリー=ジョゼが加わり、ジャルー・メディアグループは更に成長を遂げる。2003年よりマリー=ジョゼ・ジャルーがグループの代表に就任。以来、ロフィシャル・マガジンの編集長を30年以上務め、今日では彼女の4人の子供がジャルー家の伝統を受け継いでいる。

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ワカペディアの見るマリー=ジョゼ・ジャルー

もうロフィシャル・マガジンとワカペディアの濃密な(?)関係については、ご存知の人もいるだろう。私達ワカペディアは、マリー=ジョゼの娘であるヴァネッサ・ベッルジョン氏の計らいで、初めてフランスの雑誌で記事を担当することになった。フランスで初の寄稿、それがロフィシャル・マガジンだった。考えてみれば、ワカペディアとロフィシャル社は、かれこれ長い付き合いになる。ロフィシャル・イタリアの編集長でもあるジャンルカ・カンタロ氏や、メンズ版のロフィシャル・オムでアートディレクターを務めるフランチェスカ・オッキョネーロ氏をはじめ、プライベートでも親しく交流のある人たちがいるロフィシャル社へ記事を書くということは、私達にとって、とても意味のあることだった。そしてサラワカ自身、2016年はロフィシャル・マガジンのコントリビューターに選出されたこともありワカペディアにとってロフィシャル社は、家族のように思い入れがある!そんな経緯もあり、出会う前からジャルー家にも勝手に親しみを抱いていたのだった。

The_Devil_Wears_Prada_coverだからこそ、オフィシャル社を代表するマリー=ジョゼ・ジャルー氏にインタビューするということは、私たちにとってはマストだった!ただ、インタビューの前は少々ナーバスになっていたワカペディアメンバー。「彼女ってさ、映画『プラダを着た悪魔』に出てくる意地悪な編集長みたいなんじゃない?」「それより、シルエットが目立つシャネル風のスーツに高いヒールでも履いて、私達見下されるんじゃないの?」と、あれこれ勝手に思い巡らす私達。それが彼女に会った時、この先入観が全くの見当はずれだったことを知ったのだった!とてもシンプルでエレガントな、優しくて素敵な女性。そんな彼女の姿を前に、すぐに私たちは緊張していたことも忘れて、自分らしさを取り戻していた。とても優しいまなざしの中に感じる、芯の強さ。彼女はとても賢くてプロフェッショナルながらも、ワカペディアが大好きな、ちょっとハチャメチャなロックンロールさがあった!とてもアヴァンギャルドで、新しいことに興味深々。そんなスーパー・ウーマンは、まさにワカペディアが求めていた女性だったのだ!

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Marie-José Jalou

サラワカ:こんにちは、マリー=ジョゼ!お会いできて本当に光栄です!映画『プラダを着た悪魔』に登場したような、雑誌社を代表する女性に会えて感激です!ロフィシャル・マガジンの歴史を少し教えてもらえますか?

マリー=ジョゼ:もちろんよ!ロフィシャルは正確にいうと、私が生まれる前の1921年に始まったわ。ヴォーグと並んで、もっとも歴史あるファッション雑誌のひとつよ。私がロフィシャル社に入社した時はまだ19歳で、グラフィックデザインを勉強していたのだけれど、実はファッション業界に足を踏み入れたのはもっと小さい時だったのよ。3歳の時、ファッション好きの母に初めてオートクチュールのショーに連れて行ってもらって以来、もうかれこれ70年ほどこの業界に関わっているわね。

サラワカ:そんな昔からだったんですね!マリー=ジョゼのお父さんの話を聞かせてください!

マリー=ジョゼ:私の父はジョルジュ・ジャルーという名前で、オフィシャル創刊当時からアートディレクターを務めていたの。その後ヴォーグ・アメリカから声が掛かってニューヨークへ行ったのだけれど、当時は英語が全く話せず、まるで井の中の蛙状態。ものすごく恥ずかしい思いをしたそうよ。だからパリに戻った時、私の母に「やっぱり俺はロフィシャルでずっとやっていくよ」と言ったの。そこからは仕事に没頭して、ロフィシャルの株を全部買い占めるまで努力を続けたわ。

サラワカ:なるほど!それじゃあ、あなたのお母さんもファッション業界の人だったんですか?

マリー=ジョゼ:彼女はファッション・イラストレーターだったの。ススキンという名前で、ドイツ出身よ。ベルリンで生まれて、戦争から逃げるためにオランダに向かい、そこで父と出会ったの。当時は二人ともそれぞれ別の言語で話していたけれど、最初からお互い一目ぼれで、大恋愛だったそうよ。私の両親はとても素敵なカップルだったの。同じような芸術的センスを持っていたし、趣味も似ていてね。私の母はピエール・カルダンランバンが特に好きで、いつも彼らの服を着ていたわ。あの時は50年代だったけれど、私はいつも彼女のアトリエにいたの。母が服を採寸してもらう時は、いつも少し多めに布をもらって、私のためにおそろいの子供服を作ってくれたわ。私の子供の頃の思い出には、いつもファッションがあるわね。私と兄弟達は戦争が終わった直後に育った世代だけれど、母は主婦をしながら父のオフィシャルでの仕事を手伝っていたし、4か国語を話せたから、翻訳も担当していたの。彼女はパーティーみたいな華やかな場でも、地味な作業をしていた仕事場でも、いつも父の隣に立って彼を支えていたのよ。

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サラワカ:まるでアカデミー賞でも獲りそうなラブストーリー!昔のファッションショーと今のファッションショーの違いはありますか?

マリー=ジョゼ:全然違うわ!まずはね、昔は一つ一つの服に名前がついていたの。その時代はオートクチュールのファッションショーが沢山あったし、盛大なパーティーもあって、ファッション業界の人だけじゃなくて、有名なアーティストや文豪達も集っていたのよ。他に変わったことといえば、昔はファッションショーでタバコが吸えたことかしら。

サラワカ:うそ?!信じられない!!

マリー=ジョゼ:本当よ。私の母も愛煙家だったから、いつも携帯用の灰皿を持っていたの。だから70年代にアメリカが公共の場で喫煙を廃止する運動を始めた時は、とてもショックを受けていたわ。

サラワカ:あはは、そうでしょうね!そうしたら、昔と今のファッションショーの共通点はどうですか?

マリー=ジョゼ:もちろんあるわ。今も昔も、コレクションはファッション業界での一大イベントとして作られてきたし、とても特殊な空間よね。ただ服をプロの前でプレゼンテーションするだけじゃなくて、社交イベントの一環でもあるということかしら。

サラワカ:ちなみに、個人で注文を受けて一からオーダーメイドで作るオートクチュール(高級注文服)に対して、大量生産型のプレタポルテ(高級既製服)は当時からありましたか?

マリー=ジョゼ:あったけれど、そこまで受け入れられてはなかったわね。当時オフィシャル社は「アクチュアリテ・クチュール」という雑誌を創刊していて、それがプレタポルテに関する雑誌だったけれど、あまりそこまで重要視されていなかったわ。あの時は、お金が無くてデザイナーの服を買えなかった人達は、自分達でデザインを真似して作っていたのよ。生地さえ同じようなものを使ったりしてね。でも生地のクオリティにこだわることはとても大切なことよ、ロフィシャル・マガジンも出版物を扱う時は常に気を配っているの。プレスに写真を送る時も、常にオリジナルの色で送るように細心の注意を払っているわ。

サラワカ:さすがプロ!ロフィシャルはその当時から大人気だったんですか?

マリー=ジョゼ:どちらかというと、ロフィシャルは少しプロフェッショナルな雑誌すぎて、あまり大衆ウケはしなかったわね。でも逆に言えば、それはロフィシャルが当時のオートクチュールにおいて、最先端にあったと捉えられると思うの。もちろんライバルは沢山いたわ。例えば当時の大手雑誌社はアート・エ・モード、ロフィシャルヴォーグ・コレクションそしてマダムだったけれど、結局最後まで残ったのはロフィシャルヴォーグだけだったわね。それからプレタポルテが台頭してきて、全てが変わったわ。私のオフィシャルでの時代がやってきたのよ。まだ覚えてるのは、入社したばかりの頃、皆がプレタポルテのことを「あれはただの粗悪な大量生産品だ、ありえない!」って言ってたの。最初のパリでのプレタポルテのコレクションはソニア・リキエル、ドロテビス、そしてケンゾーよ。ファッションショーでは皆ビールを飲んでいたり、オートクチュールのショーよりももっとラフなスタイルだったの。だから年配のファッションジャーナリスト達は、それを見てすごくショックを受けていたわね。

サラワカ:えぇ!何でもアリなロックンロールみたいになっていたなんてびっくり!

マリー=ジョゼ:その通りよ、でもこの大きな変化があった時代は、本当にすばらしかったわ。

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サラワカ日本人デザイナーを初めて見た時の印象は、どうでしたか?

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Yohji Yamamoto F/W1981

マリー=ジョゼ:その質問を聞くと、あるエピソードを思い出すわね。ケンゾーの後にフランスに来たデザイナーは、ヨウジ・ヤマモトだったの。正直、最初は彼が誰かわからなかったんだけれど、彼はロフィシャルの・マガジンのプロモーションをできると言ってきたの。そしてある日、会社に撮影用に使うヨウジの洋服が届いたのだけれど、全部真っ黒でラインがとてもミニマルだった。いつも見ているドレスとは全く違うタイプで、今まで見たことの無いスタイルだったのよ。そうしたら、とてもガーリーでフェミニンなランジェリーブランドの「シャンタル・トーマス」で昔働いていた私達のスタイリストが、ヨウジの服に可愛らしい小さなサクランボを付け足したの。でも実際にヨウジに初めて出会った時、彼は可愛いスタイルを目指しているわけじゃないと知ったわ。もっとラディカルでコンテンポラリーなスタイルを目指していたの。その時以来、デザイナーとしっかり向き合って話をして、その人の服に対する哲学を知るということは、とても大切だとわかったのよ。そして、そのデザイナーに合ったスタイルでパブリックに紹介するということの必要性を実感したわ。フランスのファッション業界でジャパニーズの時代が到来したのは、それからよ。彼らはとても強いビジョンを持っていて、本当に創作的よ。あの時代は、全く正反対なスタイルが沢山見られたわね。例えば、一方ではヴェルサーチみたいなゴテゴテのバロックスタイルがあったのに対し、もう一方ではジャパニーズのミニマルなスタイルが台頭していたみたいに。

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Vanessa Bellugeon

サラワカ:文化の違いが服にまで影響するってすごいことですね!イタリアのブランドはどうでしたか?

マリー=ジョゼ:私はアメリカ人に勧められてイタリアへ初めて行ったのだけれど、それは当時フランスには小さなミッソーニのブティックしかなかったからなの。イタリア人は、あまりパリに来ようとはしなかったわ。彼らは、パリはファッションの聖地と考えていたようで、まずニューヨークへ行って成功を収めてから、フランスに来たのよ。私がヴォーグの人と一緒にイタリアへ行ったのは70年代の事ね。今でも覚えている最初のコレクションは、当時最先端のブランドだったクリツィア、あとはヴェルサーチアルマーニかしら。

サラワカ:そうしたら、イタリアのブランドをフランスに持ち帰ったのは、ずばりマリー=ジョゼ?

マリー=ジョゼ:そうとも言えるわね。イタリア人デザイナーのポートフォリオをフランス人に沢山紹介したけれど、その多くが断られたり挫折していったわ。その中で今でも残っているデザイナーは、ジョルジオ・アルマーニだけね。彼は当時のスタイルに革命をもたらしたのよ。シンプルで優雅、着心地が良くて、非の打ちどころのない仕立て。アルマーニの服は、60年代に大流行したシャネルやエルメスのバッグのように、当時の若い男性・女性にとって一種のドラッグのようなものとなっていたのよ。皆、ありったけのお金を出してアルマーニの服を買っていたわ!それから彼は、この大変なファッション業界で自身を見極めるために少しだけ時間を要したわ。というのも、彼は自分独自のスタイルを通して有名になったのだけれど、自分の持つスタイルを裏切ることなくトレンドに適応させていかなければならないことは、本当に大変なことなのよ。

サラワカ:すごい!さすがイタリア・ファッション業界のキング!この一時間で、こんなに濃厚なファッション業界の話が聞けて本当に嬉しいです!そんなマリー=ジョゼが好きなデザイナーは?

マリー=ジョゼ:そうね、私はセリーヌの最新コレクションが好きね。とても感情に訴えかけるような作品だと思うわ。あとはヴァレンティノかしら。スタイルが昔のままなのにコンテンポラリーと化しているところが、時間を忘れさせるのよ。

サラワカ:本当ですね!ちなみに、まだ誰にも言っていない『これから叶えたい秘密の夢』ってありますか?

マリー=ジョゼ:そうね、映画を作ってみたいわ。ファッション業界の話をベースにしたバーレスクのものがいいわね。これまで自分が体験してきた面白いことや特別な経験を映画にしたいの。この70年のクレージーなファッション業界の話を、ユーモアたっぷりに表現できる人を探しているところよ!面白おかしくて、気楽に見れるようなストーリーがいいわね。ファッションとは、むしろそういう風に捉えてもらわなければいけないものだと思うのよ。見る人や着る人の喜びになるようなものね。今の時代の人達は、その事を忘れ始めていると思うわ。

サラワカ:今日はありがとうございました、マリー=ジョゼ!もしこの映画が完成したら、プレミアムに誘ってくださいね!絶対に見に行きます!!

ファッション界の母のようなマリー=ジョゼの言葉がとても心に響いたサラワカは、思わず彼女を抱きしめた。

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Description & Interview: Sara Waka

Edited by: Yuliette

Photo by: Yusuke Kinaka