1927年にチェーザレ(Cesare)とウンベルト(Umberto)のカッシーナ兄弟によってミラノ近郊に設立された「カッシーナ(Cassina)」は、イタリアを代表する高級家具メーカー。戦後、手工業から工業生産へと移行し、実用的な「家具」を、デザイン性を兼ね揃えた「モダンファーニチャー」へと発展させたパイオニアでもある。そして、建築やデザインの巨匠たちとのコラボレーションにも力を入れてきた結果、それらの作品のいくつかはニューヨーク近代美術館などの世界的な美術館にも所蔵されている。ブランドを象徴するコラボ作品といえば、1957年に「イタリア建築・デザインの父」と称されるジオ・ポンティ(Gio Ponti)によってデザインされた、日本語で「超軽量」という意味を持つ、たった1700gのアームレスチェア『スーパーレジェーラ(superleggera)』だ。その後も、近代建築の巨匠、ル・コルビュジエ(Le Corbusier)やピエール・ジャンヌレ(Pierre Jeanneret)、シャルロット・ペリアン(Charlotte Perriand)、浅草のシンボル「フラムドール(フランス語で“金の炎”)」で有名なデザイナー、フィリップ・スタルク(Philippe Starck)による作品など、デザイン史に名を残すあらゆる年代の建築家やデザイナーとのコラボレーションを手がけ、数々のコレクションを世に生み出してきた唯一無二のブランドだ。

Echoes, 50 years of iMaestri – Cassina ph: Agostino Osio

WAKAPEDIA’S CASSINA

いわゆる典型的なデザインの「教科書」を最後に開いたのはミラノの大学でアートマネージメントを勉強していた時だから、たった5年前!と言いたいところだけど、実際にはもう10年以上も前になるらしい。長い月日を経て、またデザインの世界に没頭できる機会が来るなんて!

10月21日に東京の南青山でリニューアルオープンした「カッシーナ」のストアは、『ザ・カッシーナ・パースペクティブ』というコンセプトのもと、120年にわたるデザインの歴史が1つの空間に凝縮されている。巨匠たちによる偉大な作品は、最先端の生産技術と素材を駆使した高い技術により復刻され、『イ・マエストリ(日本語で“巨匠たち”)』コレクションとして、時代を超えた文化的価値のある家具として販売されている。まさに、異なる時代やデザインを、遊び心のあるクリエイティブな方法で融合させた、類い稀なキュレーションがそこにあるのだ。

デザイン好きのワカペディアチームは、お城に招かれたプリンセスのような気分で、おめかし完了。あいにく、カボチャの馬車は渋滞に巻き込まれたようなので、愛車のフェラーリ(という名の自転車)でオシャレエリア、南青山へ向かった!

今回は、「カッシーナ」の代表取締役であるルカ・フーゾ(Luca Fuso)と、フレンドリーなアートディレクターのパトリシア・ウルキオラ(Patricia Urquiola)が、歴史的なアーカイブの説明だけではなく、環境に配慮したイノベーションや今後の展開まで、沢山語ってくれた。とても貴重なインタビューに触れながら、ワカペディアチームと一緒に、カッシーナの魔法の世界へ。ビビディ・バビディ・ブー!

4 Chaise longue à réglage continu, durable by Le Corbusier, Pierre Jeanneret, Charlotte Perriand

ワカペディア:こんにちは!まるでデザインの古城のような「カッシーナ」でご一緒できて光栄です。デザインや建築など様々なエッセンスが入っている『ザ・カッシーナ・パースペクティブ』は、デザイン大好きな私達にとっては、まるで夢の世界!招待して頂きありがとうございます!

パトリシア:Bienvenidas (スペイン語で“ようこそ”)、「カッシーナ」へ!「カッシーナ」と日本の歴史は長くて深いのよね。この大切な関係を祝福する意味も込めて、青山本店の改装と同時に、ブランドの新しい活力を体現したいと考えたの。この店舗は、「カッシーナ」の本質に忠実で、モダンさとコンテンポラリーなエッセンスを持ち合わせているミラノの店舗に寄せているよ。

ワカペディア:今回のリニューアルでは、カラフルでエネルギッシュなデザイン家具が増えましたね。そのためか、なんだかワカぺディアのホームタウン、イタリアに帰ってきた気がする!そんなミラネーゼを連想させる「カッシーナ」は、二人にとってどんな存在ですか?

Luca Fuso – CEO

ルカ:僕にとって「カッシーナ」は、偉大なアーカイブであり、120年にわたる「デザインの百科事典」だよ。イタリアで工業デザインを生み出し、それを世界中に輸出したブランドだからね。そして、他のブランドと同様に、「カッシーナ」もまた、時代や世代を超えてこの重要な歴史を受け継いでいくために細心の注意を払うべきブランドだと思うよ。

ワカペディア:多くのマエストリと密接な関係にあって、画期的でユニークなデザインを生み出してきた「カッシーナ」は、まるで誰もが欲しくなるアイテムが次々と出てくる、ドラえもんの四次元ポケットみたい!(目を輝かせるワカペディア)

パトリシア:私にとって「カッシーナ」は、「デザインの全て」かな。何十年もの間、私たちの日常生活に寄り添ってきた、伝説となるオブジェの数々を創造してきたブランドなの。100年以上の歴史の中で、「カッシーナ」はマッキントッシュ(Charles Rennie Mackintosh)からシャルロット・ペリアンに至るまで、全く異なるタイプの個性的な巨匠達とコラボレーションしてきたのよ。カッシーナの強みは、その時代に革新をもたらしたデザインの巨匠たちによる、膨大な作品のアーカイブを持っていることじゃないかな。そして私たちの役割は、当時も今も、思いもよらない色使いや素材でエディションを作ることや、現代的なクリエーターと組み合わせることで、その破壊的で前衛的な個性を高め続けることだと思う。それがまさに、私たちの新しい『ザ・カッシーナ・パースペクティブ』の役目だと思うな。

ワカペディア:「創造性」、「巨匠」、「コレクション」と聞くと、なんだかアートを思い浮かべちゃう!アートとデザインの違いは何だと思いますか?

ルカ:僕にとってアトは、「能性がなくても好まれるもの」だね。一方で、成功的なデザインは、「しいだけでなく、能的」でなければならないよ。アートはユニークな作品からできているけど、デザインは多くの人が利用できて、アクセスできるものでなければならないんだ。でも、真の芸術作品となるデザインが存在することは認めるよ!結局のところ、二つは異なった概念を持つけれど、共通している部分もあるってことかな。

Patricia Urquiola – Art Director

パトリシア:私はアートとデザインは、創造性と感性という概念で結ばれた二つの分野だと思うわ。私にとって、機能性は両方の世界に存在すると思うの。現代アートは、私たちを考えさせ、感情を呼び起こさせる機能があるけど、デザインには、日常生活と結びついた機能性があると同時に、感情的なものもあると思うわ。成功するオブジェとは、人工学的な観点だけでなく、精神的な安らぎも反映されているものじゃないかな。物事を深く考え、理解し、倫理的にさせてくれる機能や、自己の存在意義に関心をもたせてくれる機能は、デザインと同にアトにも存在すると思うの。

ワカペディア:興味深い回答!(パトリシアに向かって)とてもクリエイティブで、カッシーナのアートディレクターを何年も務めていますが、その創造性はどこから湧いてきますか?

パトリシア:Vale (スペイン語でそうね”)、私は自由に創造できるような余白を持つようにしているよ。自分自身が経験したものや、自然の中から感じ取れる色や質感、世界中を巡る旅、職人による芸術品や先祖伝来の創作技法に至るまで、私を取り囲む全てのものからインスピレーションを受けているかな。私が何かを創造する時は、美しいものや快適なものを創ろうとは考えずに、まだ経験したことのない空間を想像したり、新しいものを試行するように心懸けているの。

Sengu Sofa & Sengu Table by P. Urquiola

ワカペディア:その言葉を聞くと、色々妄想しちゃうな(笑)「カッシーナ」は、才能のある若手デザイナーを発掘し、彼らをプロモーションしているようですが、後に巨匠となっていったデザイナーたちとの繋がりも、そこから始まったんですか?

ルカ:昔に比べて今は、国境を越えて多くの企業がデザイナーにアクセスできるようになったけれど、逆に真の才能を見極めるのが難しくなってしまったよね。そんな中でカッシーナは、2022年に新進デザイナーにプロダクトデザインの機会を提供する『パトロネージュ・プロジェクト』を開始したんだ。これは毎年1〜2名の新進デザイナーを選び、カッシーナの製品をデザインしてもらうだけでなく、展覧会や特定のプロジェクトに出品し、世界の舞台で宣伝してもらうことを目的とするプロジェクトなんだ。この若き才能の持ち主たちが、未来の偉大な巨匠になりますように!という願いを込めながらね。(ウィンク)

ワカペディア: 若手デザイナーを育成するプロでもあるなんて、デザイナー自身のみならず、皆にとっての夢としか思えない!今度は環境に視点を変えて、デザイン界が担う「サステナビリティに関する責任」とは何だと思いますか?

ルカ:サステナビリティは、もはや単なるラベルではなく、すべての思考を貫くテーマだよね。2019年には、ミラノ工科大学とのコラボレーションプロジェクト「カッシーナ・ラボ」を設立したよ。僕たちは、長持ちするモノを生産・修理したり、さまざまな方法で再利用できる製品を作ることで、消費社会のサイクルから抜け出したいと考えているんだ。それにカッシーナは、各オブジェクトに、どれだけのリサイクル素材が継続的に使用されているか、使用後の循環性の可能性を示すスコアである「循環性指標(MCI)」を作った最初の企業なんだよ。僕たちは、廃棄物を再利用して新しいモノを作る方法を研究しているのさ。

ワカペディア:確かにルカの言う通り、持続可能性の問題はデザイン業界だけではなく、地球上の誰しもが持つべき責任ですよね。次はベタだけど、ワカペディア読者のみんなが楽しみにしている最後の質問です!(笑)日本のどんなところが好きですか?

ルカ:僕は、他の国にはないディテールへのこだわりかな。些細なことでも細部までこだわる姿勢にいつも感動するし、魅了されているよ。

Dudet by P. Urquiola

パトリシア:私は、かれこれ30年くらい日本に恋してる!私がデザインした製品の多くに日本の名前がついているのは、この国が私にとって無限のインスピレーションの源だから。住宅地にある小さなお店から荘厳なお寺まで、全てが私を刺激するのよ。

ワカペディア:日本がインスピレーションになっているなんて嬉しい!今日は貴重な時間をありがとうございました。それにしても、パトリシアがデザインした素晴らしい「カッシーナ」のチェアに座って、皆でコーヒを飲んでいたら、あまりにも快適で時間が過ぎるのを忘れちゃった!

パトリシア:デザイン性に加えて、精神的な安らぎがいかに大切かわかったでしょう?(笑)

すっかり話し込んで、気づけば時計の針は真夜中の12時をまわるところだ。ところが、「カッシーナ」の魔法はまだ解けそうにない。精神的な安らぎに加え、ルカとパトリシアが与えてくれたインスピレーションに包まれて、ワカペディアチームは真夜中の南青山を後にした。もちろん、愛車のフェラーリを漕ぎながら。

Photo: Irei Yoshimitsu

Description & Interview: Sara Waka

Edited by: Wakapedia Japanese Team