エジブトの石棺やサルコガファスから、ジェフクーンズ(Jeff Koons)まで、アートの世界を1日で一周することができるって、どうやって?!それはフリーズアートフェアで!

毎年10月になると、世界の名だたるアートの巨匠達がフリーズアートフェアのために、ロンドンに集結する。溢れ出す好奇心と興奮を胸に、ミリオネアのアートコレクターから国際的に有名なギャラリスト、ショービジネスのスターからアート愛好家まで、世界中から英国の首都、ロンドンに続々と集まってくるのだ。では、主要アートフェアの一つとも言われている、この世界最大級のアートフェアは、一体どうやって始まったのだろう?それは、現代アートの専門誌「フリーズマガジン」がアートイベントとして、2003年にロンドンでフリーズ・アートフェアを開催したのがキッカケだ。このフェアは瞬く間に人気となり、その後2012年にはフリーズ・ニューヨークが開催されて以来、毎年5月にはニューヨークでも行われ、沢山の来場者で賑わうアートフェアへと成長した。そんなフリーズ・アートフェアは現在、二つのパートに分かれている。

一つ目は、フリーズ・マスターズ。マスターズと言うだけあって、最高級アートを求める大物アートコレクターやギャラリストが集まるフェアだ。アートの種類はビザンティン美術、ジュエリーや17世紀の地図、アンディ・ウォーホル(Andy Warhol)やルーチョ・フォンタナ(Lucio Fontana)など、あらゆる時代の作品を網羅している。これこそずばり、アート・マスターのためのフェア!

二つ目は、フリーズ・ロンドン。幅広い時代のアートを取り扱うフリーズ・マスターズに対して、コンテンポラリー・アートに特化したのが、このフリーズ・ロンドンと呼ばれる現代アートフェアだ。1000人以上の才能溢れるコンテンポラリー・アーティストが作品を出展しているので、もしかしたら次世代のピカソやジェフ・クーンズを発掘できるかも?!

この二つのフェアは会場同士がとても近く、歩いて移動ができる。そのため、まるで野外アートフェアとも言える、緑でいっぱいの王立公園リージェンツパーク(Regent’s Park)で、散歩がてらに彫刻を楽しみながら移動するのもオススメだ。ここまでフェアについて知っても、驚くのはまだ早い。2017年のフリーズ・アートフェアには275にものぼるギャラリーが参加し、紀元前7世紀のエジプトで製作された現存するミイラから、2017年度に製作された真新しいアート作品まで、6000年の歴史を誇るアートの歴史に触れることができる他、5000平方メートルを超える広さの会場に、70000人近くの来場者が参加したという、信じられないような数字のオンパレード!

そんなフリーズから招待状を受け取ったワカペディアは、一瞬たりとも迷うことなく参加を誓った。まるで遠足前日の小学生のように、この数日間の「アート遠足」についてあれこれ妄想が広がるほどのはしゃぎっぷりで。期待と興奮が高まりホテルに着くと、フリーズはワカペディアに素晴らしいサプライズを用意してくれていたことに気づいた!通されたホテルは、多くの若者が集まるトレンディーでクールなベストナイトスポット、ショーディッチのど真ん中に位置する、五つ星ホテル「カーテン」(The Curtain) 。ホテルの部屋に入るとお酒好きにはたまらない、マルティーニ・キットに始まり、クローゼットには偉大なロックスターのポスター、大人の夜を存分に楽しむためのラブ・キット(コンドーム、ローション、バイブレーターのセット)、そして激しく情熱的なパーティーナイトを満喫した翌日のために、ハングオーバー・キット(歯ブラシ、アイクリーム、マウスウォッシュ)とナイトクラブで摂取したアルコールをとばしてくれるサウナが出迎えてくれる。なんてロックな演出!立地といい、部屋のデコレーションといい、用意されたキットからしても、「ワカペディアのためにだけ作られたのだろうか?!」と錯覚してしまうほどぴったりだ!まるで遠足で最大の楽しみ、おやつの時間に、先生が大好物を配り始めたかのようなテンションのワカペディアチーム。快適な部屋でひとしきりくつろいだ後は、ホテルを飛び出し、いざ会場へ!

実はアートイベントに参加する時、高ぶる気持ちが抑えられなくなる理由がいくつかある。大学時代に学んだアートの「おさらい」を直接自分の目で見ながらできること、新しい才能を持つアーティストを発掘できること、さらには世界レベルの素晴らしいギャラリストに話を聞くことができ、隠されたアートの歴史や意味を知ることができるという点だ。今回はそんなギャラリストの話を参考にしながら、ワカペディアが選ぶ「2017年度のベストアーティスト4人」をご紹介!

トマーゾ・ビンガ(Tomaso Binga) – Tiziana di Caro Gallery , ナポリ

通称、トマーゾ・ビンガ(Tomaso Binga)。本名はビアンカ・プッチャレッリ(Bianca Pucciarelli)。アート業界が男性中心だった70年代に、女性でありながらもトマーゾ・ビンガという男性の名前で活動したアーティストだ。なぜトマーゾという名前を選んだかというと、20世紀初頭のイタリアの詩人作家であり、未来派を唱えたフィリッポ・トンマーゾ・マリネッティー(Filippo Tommaso Marinetti)に感銘を受け、敬意を込めてつけたのだとか。ちなみに「ビンガ」は、彼女が子供の頃、自分の名前である「ビアンカ」を上手く発音出来ず、「ビンガ」と発音していたところから取ったそう。体を思い切り使い、言葉遊びを活かしてアートを表現するユニークな作品は、私たちの心を見事に捕えた!『Ti scrivo solo di domenica』(和訳: 日曜日にだけ貴方に宛てて書く)は、架空の友人やアーティスト自身にも宛てて書かれたと思われる52通の手紙から構成されている。ちなみに52通というのは、作品が作られた1977年の日曜日が52回だったことからきているんだ、とギャラリストは説明してくれた。それにしても、なぜ日曜日だけ?それは当時の女性にとって、日曜日が唯一自分自身のために時間を使える曜日だったから。男性社会においてマイノリティーな女性アーティストの肩身の狭さと、それに対する社会への抗議にも見える。

ワカペディアが夢中になったポイント!

彼女は自分の性や立場から、皮肉を上手く活かしつつも、詩的でエレガントに当時の社会問題を表現していた。深く、優しく心に響く見事なアート作品!

 

荒川修作 – Massimo Minini Gallery, ブレーシャ

1936年に日本に生まれ、1961年にニューヨークへ移住した日本人アーティスト。ポップ・アートの先駆けともなる、1950年代後半から60年代にかけてニューヨークを中心に生まれた前衛芸術運動のネオダダに参加した。彼がニューヨークに着いた時、ポケットにはたった14ドルマルセル・デュシャン(Marcel Duchamp)の電話番号だけしか入っていなかったという伝説が残されているのにはビックリ。もちろん、ビックアップル(ニューヨークの愛称) に到着するや否や、真っ先にデュシャンに連絡したのは言うまでもない。その日からデュシャンは彼の指導者となり、彼の多くの作品に影響を与えるアーティストになったのだが、その他にも彼の妻であったメデリーヌ(Medeline)は建築家として活動していたため、彼との合作作品を残している。まるでカラフルなルービックキューブを連想させる、遊園地のアトラクションような建物を東京の郊外に設計した。そして2010年に荒川氏が死去すると、彼のアーカイブ作品を集め、彼の教えを存続するために財団が設立された。その甲斐があってか、先見性のあるキュレーションで有名なニューヨークのガゴジアン・ギャラリー(Gagosian Gallery)や、現代美術を扱う画商として有名なパリのイヴォン・ランベールギャラリー(Yvon Lambert)、ニューヨークのニューヨーク近代美術館、MOMA、そして、パリのポンビドゥーセンター(Pompidou Centre)まで、彼の作品は海を渡り世界中の人に影響を与えている。14ドルだけ握りしめていた彼がここまでビッグなアーティストになったことを考えると、ちょっとロマンティックにいうならば、アート界のシンデレラストーリーとも言えるのかも。

ワカペディアが夢中になったポイント!

荒川氏はアーティストという枠を超えて、一人の勇敢な冒険家だ。無一文なしで異国へ旅立ち、都市近郊という場所にも躊躇することなくカラフルな建物を建て、平らなキャンバス上に大胆な動きを加えた。その少しぶっ飛んだ勇気と創造性により、彼はここまで登りつめたように思う。つまり、ワカペディアがお手本にすべき人物だということ!

レナーテ・ベールトマン(Renate Bertlmann) – Richard Saltoun, ロンドン

レナーテ・ベールトマン(Renate Bertlmann)はフリーズアートフェアの『Sex Work: Feminist Art & Radical Politics (セックスワーク:フェミニストアートや政治的根拠)』というセクションに作品が展示されているアーティストの一人だ。このセクションは、キュレーターのアリソン・ジンジャラス(Alison Gingeras)が2017年度のフリーズ・アートフェアに向けて特別に設置したセクションで、セクシュアリティーやフェミニズム、性についてというデリケート且つ刺激の強いテーマを追求したセクションだ。このギャラリーはその中でも「衝撃的な性」というテーマを選び、フェミニズムと性にフォーカスした作品が展示されていた。そんな彼らが選んだアーティストであるレナーテは、60年代から挑発的なアート作品を作り出してきた、オーストリア出身の女性アーテイスト。彼女は社会における『男性』と『女性』のステレオタイプの対比をバイブレーター、コンドーム、おしゃぶり、性器の形をした人形など、挑発的なオブジェを通してアートというツールで訴えかけている。

ワカペディアが夢中になったポイント!

男性器の形をした人形が、オルゴールのように箱の中でくるくると回り出したり、サボテンの上に男性器の形をした大人のラブグッズ、ディルドが埋め込まれていたりと、なにかと目を引く作品が盛り沢山!とにかくインパクトが強く、話題性溢れるインスタグラマー一押しのフォトスポットとしても注目!

エフゲニー・アントゥーフェフ(Evgeny Antufiev) – Emalin Gallery, ロンドン

今回初めてフリーズに参加した、このギャラリー。私たちが一目見て気に入ったのは、そのフレッシュさと独創性。入り口には大きなモンスターの口がドアの代わりに設置され、来場者の視線を一身に集めていた。興味津々で思い切って中に入ると、まるで珍品を集めた秘密の部屋のようだ。その中に、1986年生まれのロシア出身のアーティスト、エフゲニー・アントゥーフェフ(Evgeny Antufiev)の作品がある。ロシアの昔話や伝説に出てきそうな、ドラゴンやお面を現代風にリメイクしたような作風で、アンティーク美術館に展示されているようなナイフにニコちゃんマークを付けてみたり、昔ながらの民話に出てきそうなお面を布で作ってみたりと、キッチュな見た目に遊び心も感じられた。

ワカペディアが夢中になったポイント!

若くて情熱的なギャラリー創設者、レオポルド・サン(Leopold Thun)とアンジェリーナ・ヴォルク(Angelina Volk)。彼らにとって初のフリーズ参加となった今回の展示で選んだのは、彼らと同様に若いアーティストだ。その判断はまさにピッタリで、売り切れるほどの絶好調ぶりだったという。その調子で羽ばたけフレッシャーズ!こうしてワカペディアチームも、若者から溢れ出すパワーや才能に多くの刺激を受けたのだった。

Description & Interview: Sara Waka

Edited by: Yoka Miyano