日本が生んだ注目の現代アーティストコレクティブ、Chim↑Pomによる奇抜で破天荒な展覧会、「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」が東京・森美術館にて開催中!

近未来的な高層ビルが立ち並ぶ六本木、その中心に位置するのが六本木ヒルズ森タワーだ。六本木ヒルズ森タワーの最上層53階にある森美術館では、村上隆草間彌生をはじめとする日本を代表する現代アーティストの作品展や、ニューヨークMoMA美術館とのコラボレーション展示等、時事問題や緊迫したテーマを多く取り扱った展覧会を開催してきた。そんな日本の現代アート界を牽引する美術館で、今最もホットな日本人アーティストとも言われているChim↑Pom(チンポム)の初レトロスペクティブ(回顧展)が、2022529日まで開催されている。

2005年に東京で結成されたChim↑Pomは、政治的なテーマや挑発的なインスタレーション、社会的メッセージの強いパフォーマンスで知られている6人のメンバーからなるアーティストだ。彼らのカラフルなアイデアと強烈な個性から次々に放たれる作品は、まるで大きなエナジーボール。ワカペディアチームが初めて彼らの作品を目にしたのは、2018年にローマで開催された、イタリア国立21世紀美術館(MAXXI)での展示だ。イタリアを基盤に、ヨーロッパのアート業界にどっぷり浸かった20代を過ごしたワカペディアチームは、日本人アーティストが世界で活躍する姿を見て嬉しくなったのと同時に、イタリア国立美術館が日本人アーティストを取り上げてくれたと知った時には、「ありがとう、我がイタリア!」と叫びたくなるほど誇らしかった。そんな思い出深いアーティストの作品が大集結した回顧展をホーム(日本)で味わえるなんて、見逃すわけにはいかないでしょう?

『ハッピースプリング』というサブタイトルには、パンデミックという苦難の時期においても明るい春が来ることを望み、たとえ逆境の中にあっても想像力を持ち続けたい、という希望のメッセージが込められている。Chim↑Pomの型破りな作品は、大胆で挑発的な上に皮肉たっぷりだけど、シリアスな題材をコミカルに表現し、私たちの想像力を最大限に刺激する。見終わった頃には、きっとお腹いっぱいだ。深刻な社会問題にまみれるこの不安定な時代の中、独特のアイデアを彼らの「アート」という共通言語で彩ることで、私たちがもっと自由でいれば、未来は意外と明るいのだと、もしかしたら示唆しているのかもしれない。

Chim↑Pom《ヒロシマの空をピカッとさせる》2009年 Courtesy:ANOMALY and MUJIN-TO Production(東京)撮影:Cactus Nakao

ピカチュウからヒロシマまで。大胆と讃えられ、不謹慎と騒がれた作品のオンパレード

展覧会には10のセクションがあり、彼らの17年のキャリアの中で制作された約150点の作品が展示されている。東京のような大都市における(無秩序な)都市開発、そしてその結果生じる消費主義、貧困、パンデミックなど、どれでも深刻で話題性の高いテーマばかりだ。

Chim↑Pomは、日本の歴史における悲惨な出来事や、とてもデリケートな瞬間からインスピレーションを得ているようだ。特に印象的なのは、2008年に、広島原爆ドームの上空に飛行機雲で、原爆が投下された瞬間を思わせるオノマトペである「ピカッ」という文字を描いた。この作品は、地球の裏側で不穏な世界情勢や悲惨なことが起こっている中、日本人のいわゆる「平和ボケ」とも言える無関心さを可視化したものだ。これは落書きなのか、創作活動なのか。彼らはデリケートな歴史的悲劇に真正面から突っ込んでいったどころか、とっても「ライト」な切り口でストレートに表現したものだから、前代未聞の取り組みが賞賛された一方で、大きな物議を生んだ作品となった。

他にも、原爆に関連する作品として《パビリオン》2013/2022年)がある。平和を象徴する色とりどりの折鶴が、巨大なピラミッドを形作っていて圧巻だ。広島市には毎年、平和を願う世界中の人々から多くの折鶴が送られてくる。Chim↑Pomのメンバーの一人であるエリイは、この無数の折り鶴をひとつひとつ広げるというパフォーマンスを行った。広げられた折り紙を、平和への願いを込めるかのように折り直し、再び鶴として再生させるか否かは、展覧会を訪れた人々の手に委ねられている。そこで再び折られた折り鶴は、広島に寄付されるそうだ。この参加型アートは、私たちがどこかで関わっている「平和の創造」と、「循環する破壊のプロセス」を象徴しているみたいだ。

Chim↑Pom 展示風景:「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」森美術館(東京)2022年 撮影:森田兼次 画像提供:森美術館

近年では、2011年の東日本大震災の大地震で起こった福島第一原子力発電所の悲劇が、Chim↑Pomに力強いコンセプチュアルなアート活動を後押ししているように思う。あの悲劇的な事故の一ヶ月後、Chim↑Pomは防護服をまといながら福島に戻り、日の丸の周りに、スプレーで3つの赤い翼を描き、放射能の影響に対する警告のシンボルを表すというパフォーマンスを動画に残した。また、2015311日から開催されている「Don’t Follow the Wind 」は、Chim↑Pom が立案者となり、アイ・ウェイウェイを筆頭とする国内外のアーティストが作品を展示する国際展であるものの、会場は放射能汚染された帰還困難区域内にある。つまり、この展示は住民が避難して以来、スタートしてから7年が経った今でも、一般の人々は訪れることができない。放射能がなくなり、再び住民の帰宅許されるようになった時、初めて観に行くことができる「幽霊展示」なのだ。

また、別の作品「スーパーラット」は、罠への学習能力が高まった結果、駆除用の薬剤に抗体を持ち、繁殖し続ける新種のネズミに対して、ネズミ駆除業者がつけた造語が由来だ。2006年に、捕えたネズミを剥製にし、ポケモンのピカチュウに見立てたペイントを施し、豪華なセッティングと共に展示した。東京(人口3700万人のうち、ネズミの数は20万匹以上だとか!)のような大都市で、このちっちゃな嫌われ者が増殖していることへの警告である一方、彼らは人工的な都市で共存する自然の存在であり、自らを生き生きと進化させるポジティブなシンボルでもある。スーパーラットはまるで、パンデミックや数々の災害にも負けずに発展し続ける、日本人の姿を映し出しているようだ。

Chim↑Pomの混沌とした世界観では、日本文化の矛盾や伝統が絶妙なバランスで表現されている。ここだけの話、何も知らずに彼らの作品を見ると、一体これはボケなのかアートなのか、と思わされることがあるかもしれない。でも、そんなことを考えるのは、きっと無意味だ。彼らは、未だに保守的と呼ばれる日本社会で、皮肉と挑発、面白さと批判を巧みに織り交ぜながら、メディアコンテンツの検閲をかいくぐっている。敏感で論争の的になるような問題について、「今こそ考えてみるべきなのでは?」と言わんばかりに。

新型コロナウイルスと共に過ごす3度目の春は、ウクライナでミサイルが飛び交うし、経済は疲弊するし、人々の分断は止まらないし、予想以上にとても暗く、悲しい始まりだった。言語や戦車、お金で解決することができない問題は山ほどある。だからこそ国境もタブーも蹴散らして、荒削りであっても、私達にはそれらを超越したアートという共通言語が必要なんじゃないか。

東京の桜は、早くも散りはじめている。でも私たちの春は、これからだ。

 

 

Edited by: Wakapedia Japanese Team