アートとデザイン、そして芸術性と機能性といった二つの概念の曖昧な境界線を考えさせる展示会『DYSFUNCTIONAL』が、ヴェネツィアのカ・ドーロ (Ca’ d’Oro )で開催中!

ヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展が開催されてから、2019年で58回目となる。5月中旬のオープニングには、現代美術の新しいトレンドを見逃すわけにはいかないと、世界中のアートコレクターやアーティストがヴェネツィアに大集結!これまで文化・芸術をこよなく愛してきたワカペディアにとっても、このヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展は、まるで年に一度だけ織姫が彦星に会える七夕の様に、胸の高まりが抑えられなくなるような大切な日。(ビエンナーレは2年に一度なので、ドキドキは七夕以上かも?!)そんなビエンナーレに思いを寄せるワカペディアの元に、スイスのジュエリー&時計のブランド、ピアジェ(Maison Piaget)から、3日間に渡るヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展の招待状が届いた。公式展示館のTOPセレクションについては、次回詳しく紹介するとして、今回は「アートとデザイン」、「芸術性と機能性」という、両者間の曖昧な境界線について観客に問いかけた、ビエンナーレの関連展示館に注目しよう。

カ・ドーロのジョルジョ・フランケッティ美術館(la Galerie Giorgio Franchetti)で開催中の『Dysfunctional』展は、外せない展示の一つだ。日本語で「機能不全」という意味が付けられたこの展示会は、コレクティブル・デザインの先駆的ギャラリーとして名高いカーペンターワークショップ・ギャラリー(Carpenters Workshop Gallery)が主催しており、2019年11月24日まで開催している。アート作品に使いやすさや機能性を求めるのではなく、芸術の持つ美しさや表現力を追求することで、「フォルムと機能性」、「アートとデザイン」、「歴史的なものと現代的なもの」といった概念の境界線を、改めて考え直すように問いかけている。

会場となったのは、大運河に面した邸宅の中でも、その美しさが一際目を引くカ・ドーロ15世紀のヴェネツィアゴシック建築の建物で、当時は外壁が黄金で覆われていたことから、イタリア語で「黄金の館」を意味する、カ・ドーロという呼び名がついたそう。そんな歴史的なお宝そのものとも言える場所に、21人の芸術家と、カーペンターワークショップ・ギャラリーを代表するデザイナーの作品が展示されている。ヴィンチェンツォ・デ・コティ(Vincenzo de Cotiis) やック・オウエンス (Rick Owens)、マーティン・バース(Maarten Baas)、ナチョ・カルボネル (Nacho Carbonell)、バーホーベン・ツインズ (Verhoeven twins)等、現代の名だたるデザイナーたちの作品が展示されている。それはまるで、イタリアの誇るルネッサンス期の画家、アンドレア・マンテーニャ(Andrea Mantegna)バロック期の彫刻家ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ(Gian Lorenzo Bernini)バロック期のフランドル出身の画家アンソニー・ヴァン・ダイク(Anthony van Dyck)のような歴史的芸術の巨匠達の作品とコラボレーションしているかのような空間だ。個々の芸術性の高さはもちろん、芸術家同士の作品が時空間を超えて混じり合い、不思議な美しいハーモニーが奏でられている。時空を超えたアートの旅を味わっているような気分になるのだ。

ちなみに今年のヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展のテーマは、「May You Live in Interesting Times」。様々な暗いニュースが飛び交うこの時代に、「数奇な時代を生きられますように」という意味が名付けられた皮肉まじりのテーマだが、このテーマを元に展示された作品らは、全体的にどこか社会の闇を意識した作品が多かった印象だ。そんな中、『DYSFUNCTIONAL』展はシャボン玉のような球体があちこちに飾られ、無邪気な幼い頃に戻ったような感覚を味わわせてくれた。そのコントラストを同時に体感したことが、ワカペディアの印象に残った理由の一つだ。

シャボン玉といえば、ピアジェとコラボレーションしたオランダ出身のデザイナー、バーホーベン・ツインズが手掛けた『Moments of Happiness』(至福の瞬間)は、ワカペディアが夢心地になった一押しの作品だ。この無邪気で遊び心のある双子のデザイナーは、カ・ドーロの最上階の外廊下に、割れそうで割れることのないガラスのシャボン玉を出現させた。恐らく誰しもが子供の頃に願った、「触っても割れないシャボン玉があったらいいのに」という夢を実現させたものに違いない。彼らの芸術性を求め、緻密な職人技術や精巧さを一つにすることで逸品を作り上げるという姿勢は、ピアジェ社の世界観とも共通しているように思えた。使いやすさなどの機能よりも芸術性を追求した、ガラスのシャボン玉。黄金がかった虹色の表面には、太陽の柔らかい光とともにヴェネツィアの歴史ある風景が映り、時空が融合された幻想的な夢の世界を創り出していて、まるでマジックのよう!

そんな幻想的なシャボン玉を追いかけるうちに、明るく照らされた不思議な森へと迷い込むだろう。森の正体は、スペイン出身のナチョ・カルボネル (Nacho Carbonell)の作品「Inside a forest cloud chandelier」だ。カ・ドーロの中庭に佇むシャンデリア、そこから漏れる柔らかい光のランプが、眩い森を創り出している。黄金がかったように見えるこの光は、かつては金色で覆われていたファサードを表しており、この館へのオマージュも込められているとか。彼の作品を通して、過去を現代アートに反映することで、歴史を包み込み「現代」へと融合している。

アムステルダムに拠点を構えるスタジオドリフト(Studio Drift)の「Fragile Future Chandelier Venice Mantegna」も、アンドレア・マンテーニャイタリアルネッサンスの傑作とも言われる「聖セバスティアヌス」の絵画(ワカペディアメンバーが大学の芸術史の授業で山ほど勉強したせいか、夢でうなされたこともあるほど、思い入れのある絵画)とコラボレーションしたような作品だ。タンポポの綿毛を使用したライトを流れ落ちる滝の様に飾る繊細なインスタレーションとなっている。エレガントだけれど視覚的インパクトは大。メンバーは、いつかリビングに飾るんだ!と心に誓いながら、次の作品へ足を運んだ。

最後を締めくくるのは「Real Time XL」。幸せな気分を大いに味わった後、オランダ出身のデザイナー、マーティン・バース(Maarten Baas)の作品の前で足を止めた。大きな時計の文字盤に、アーティスト自身が、現実の時間の流れに沿って数分おきに針を消し、新しい時間を描き直すというものだ。

これまで見てきた作品は、アーティストがいなければ時間を刻むことのできない時計、割れることのないシャボン玉、木々が生い茂って暗い陰を落とす代わりに、柔らかい光で眩く照らしてくれる森などだった。「機能不全」と聞くとネガティブなイメージかもしれないが、本来の機能を失ってしまったこれらの作品の様に、機能が不完全だからこそ現れる芸術性や素晴らしさが隠されているのかも?その隠された答えを見つけられるかは、あなた次第。是非みなさんの目でお確かめあれ!

Description: Sara Waka 

Edited by: Yoka Miyano

Photo: Tomaso Lisca