1984長野県生まれ。女子美術大学短期大学部在学中に制作した銅版画『四十九日』でプロへの道を切り開く。アクリル画、有田焼、ライブペインティングなどに制作領域を拡張し、神獣や神話をテーマにした作品を発表。2015年に有田焼の一対の立体狛犬『天地の守護獣』が大英博物館日本館に永久展示、2019年に台湾企業HTC VIVE ORIGINALS と共同制作したVR 作品『祈祷=INORI』が第76ヴェネツィア国際映画祭VR部門にノミネートされるなど、国際的評価も高い。『ネクストマンダラ−大調和』625日から828日まで川崎市岡本太郎美術館で公開され話題を呼んだ。2023年にユネスコ世界遺産である東寺灌頂院(かんじょういん)に奉納展示される予定。

WAKAPEDIA’S MIWA KOMATSU

溶けそうな暑さの8月某日、駅のホームでガリガリ君をほおばりながら電車を待つワカペディアチームの姿が。実は、この夏、世界で話題のアーティスト、小松美羽氏の密着取材を進めていたのだ。

川崎市岡本太郎美術館で行われた「小松美羽展 – 岡本太郎に挑むー霊性とマンダラ」展で、不思議で神聖な彼女の世界観に虜になったワカペディアチームは、「次のインタビュイーは彼女しかいない!」と心に決め、919日まで阪急うめだ本店で開催されていた「小松美羽展-霊性とマンダラ-」展へ向かった。会場で神事として行われたライブペイントは、神聖な白装束で現れた小松美羽氏が瞑想するところからスタート。お抹茶が似合いそうなお淑やかな外見からは想像もできないほど、荒々しく、無心に、そして時に無邪気にさえ感じられるパフォーマンスが繰り広げられた。筆を叩きつけ、絵の具をキャンバスに投げつけ、素手で塗りたくるその姿は真剣そのもの。髪や白袴が飛び散った絵の具で色とりどりに染まり、彼女自身がアートと一体化するだけでなく、見ている観客までも包み込み、すべての現象がコネクトし、そこに新たな「世界」が創造されたような気がした。それは、ここ数年、閉ざされた世界での生活を強いられ、生きる希望を失いかけていた私たちの心を揺さぶり、魂をしがらみから解き放つと同時に、自由に生きるための祈りを表しているかのようにも思えた。

ライブペイントを終え、ついに待ちに待ったインタビューの時間がやってきた。彼女の穏やかで柔らかい外見や話し方とは対照的に、目の奥には光る鋭さや芯の強さがあり、不思議で神秘的なオーラと、とてつもないエネルギーを感じたのが印象的だった。なんだかまるで、観る人たちを惹きつける宮崎駿のジブリアニメの主人公みたい!話をするほど奥深く、宗教等の話題も独自の視点で切り込んでいく、若き新鋭なるアーティスト。そんな一味違う世界に引き込まれる、小松美羽氏のインタビューがついに解禁!

ワカペディア:インタビューする前からあなたのことが大好きです!って言ってもいいですか?(笑)

小松美羽(微笑みながら)ありがとうございます

ワカペディア:聞きたいことがありすぎて、どこから始めていいのか・・・こまっちゃん、いや小松さんの生い立ちを教えてもらえますか?また、ご自身が描く神秘的な世界は実際に目に見えていると聞きましたが、昔から霊的なものに敏感だったんですか?

小松美羽こまっちゃんでいいですよ(笑)そうですね。小さい頃から長野の自然の中で生活していたから、そこに存在する精霊や、神獣さんを見る機会が多かったんです。でも、そういうスピリチュアルな存在が見えることで、子供の頃は同級生からはあまり良い目で見られてなかったんですよね。それで同級生とどこかうまく馴染めなくなっていって、登校も休みがちになってしまうこともありました。母がよくギャラリーや美術館に私を連れ出してくれたのが、画家としての始まりでした。子供心ながら、「絵を描いた先にこんな世界があるんだ。絵には人の気持ちに寄り添ったり、癒したりするような、色んな役割があるんだ」と思ったのを覚えています。

ワカペディア:こまっちゃんの絵を見た時、本当に不思議なエネルギーを感じました!ずっと動物の絵を描いていたんですか?

小松美羽昔から身近な動物の絵はよく描いていましたが、神獣さんを描き始めたのは18歳の時です。ずっと描きたいと思っていたものの、実際にどうやって形にすればいいのかわかりませんでしたが、19歳の時におじいちゃんが亡くなったことが大きなきっかけになりました。息を引きとる瞬間、今まで見てきた生き物の最後の瞬間と同じ様に、肉体から魂がポッコリ抜け出ていくのが見えたんです。それ以来、これまで言葉にできなかったものが、描けるようになりました。そうして生まれたのが、『四十九日』という作品です。

ワカペディア:なるほど!確かに魂には、肉体のようにリミットがないですしね。個人的な話ですが、今年のヴェネチア・ビエンナーレでも、特にそういうことを考えさせられる出会いが多い気がします。ご自身では、コンテンポラリーアーティストとして認識されていますか?

小松美羽よく聞かれますが、そもそも私は、自分自身をコンテンポラリーアーティストとしても、女性アーティストとしても認識していないんですよ。確かに、肉体は女性の形をしていますが、魂自体には性別もなければ、自然や動物、人間もみんな同じだと思うんです。私にとって重要なことの一つに、創造をとうして自分の魂が成長すること。また、絵を通じて他者の魂と繋がりあい、互いに成長し合うことです。ただ、女性には子宮があり、「魂」が宿った「命」を作り出す神秘的な空間があることは、ウーマンパワーの素晴らしさだと思いますし、私の作品にも通じるところがあると思います。

ワカペディア:面白い視点ですね!ところで、最初に絵を描き始めてから現在に至るまで、作風に変化はありましたか?

小松美羽最初は、自然や精霊から受け取った感覚をそのまま描いていました。20代の頃は心の葛藤が多く、ストレス性の円形脱毛症にも悩まされました。貧乏生活が長かった事もあり、食事や生活習慣は不摂生でした。でも30歳くらいの時にタイで瞑想を学んでから、絵を描く前に深く瞑想するようになり、色々なことがガラッと変わりました。どのように作風や私自身のあり方が変化したかは上手く説明できないけど、一つ言えることは、確実に前に進んでいるということだと思います。

ワカペディア:瞑想と出会い、大変だった時期を乗り越えたことが、今の作風につながっているんですね。海外での展示やライブアートも経験されていますが、自身の作風や在り方に大きな影響を与えた経験はありましたか?

小松美羽:ラザレットベッキオイタリア)でのライブペイントの経験は私に祈る心の大切さを教えて下さった経験の一つです。描いている最中に涙が流れたのは初めてでした。ここで亡くなった方達への追悼と、敬意を込めて、そしてここにつないでくださった全ての人、ご縁、イタリアに感謝を込めて一心不乱に描ききりました。ただ、この経験だけでなく、全ての国々での経験、全ての学びが今の私のアートの力になっていますね。例えば、何万光年離れた星の消滅も、通りすがっただけの人も、道端に咲いた一輪の花でさえ、今の私や創作になんらかの影響を与えてくださっていると信じています。

ワカペディア:無駄なことは何もなかったんですね!そんなこまっちゃんの宗教観は、どのようなものですか?

小松美羽そもそも、相手が信じている宗教や信仰について根本的に知ることは、とても大切なことだと思います。私自身はSBNR(Spiritual but not religious/無宗教型スピリチュアル層)なので、特定の宗教を信仰しているわけではありませんが、タイ仏教に詳しい方から話を聞いたり、ラビ(ユダヤ教の宗教指導者)やユダヤ教心理学者の方から、聖書を学んだりもしました。そういえば以前、出雲大社を歩いていた時に、虹色の光が雲を突き抜けていったのを見たんです。その時、神社にいたのに、聖書の世界を感じたんですよ。なので、宗教や宗派はあまり関係ないのかもしれないですね。

ワカペディア:なるほど。アートを通して伝えたいメッセージと、それらをどのように表現しているか教えてください。

小松美羽第二次世界大戦以降、私たちは大加速時代に突入し、豊かさを求めることに比例して、地球の資源は悲鳴をあげてきました。大加速(グレートアクセラレーション)から大調和(グレートハーモナイゼーション)への変化ですね。人も動物も昆虫も魚も、全てが尊い命の輝きを持っています。区別して排他的になるのではなく、差別するのでもなく、お互いに認め合い大調和しながら生きていく。作品達には、人々の魂が良い方向に行きますように、と祈りを込めました。

ワカペディア:あらゆる命を尊ぶとのことですが、アート業界でもデジタル化が進み、デジタルアートが進出してきていますよね。自然や魂のつながりを大切にするアーティストとして、どう思いますか?

小松美羽デジタルアートの基礎を作ったのは生身の人間であり、ロボットもまた、人間の創造物です。これからはデジタルを取り入れた制作者だけでなく、見る側の受け止め方などが問われてくるのではないでしょうか?デジタルを好きな人はデジタルを好めばいいし、アナログが好きであればアナログと触れ合えば良いと思います。要は、自分が作品を見た時に、あなた自身の心がどう反応するかしないかだと思います。何かを否定して、何かを肯定するのではなく、それがどう自分に作用するのか、結果的に何が起こったのかを知ることが大切だと思います。

ワカペディア:まさにそれこそが、調和のための一歩かもしれませんね。今後の活躍が期待されていますが、どんなアーティストであり続けたいですか?また、人生の哲学があれば教えてください。

小松美羽そうですね。私は自分の生きる役割・使命が制作することであり、アーティストと呼ばれることは、他者からの評価の一つだと思っています。多くの人に支えられながら命を全うし、死ぬその日まで描き続けたいですね。自分自身もまた、生と死という対局にあるものを大調和しながら生きていかなくちゃ、と考えてます。

ワカペディア:名残惜しいけど、最後の質問です。あなたにとって、アートとは?

小松美羽私にとってアートは、魂や心を救う薬ですね。

ワカペディア:薬かぁ、考えたこともなかった!今日はこれまでと違った、壮大な視点からアートを見ることができました。この巡り合わせも、引き寄せられたものだったりして?(ドキドキ)インタビュー、ありがとうございました!

展示会終了後、あれこれと質問しながら色んなことが頭を巡り、気づいたら行きつけのバーに到着した。知的好奇心が満たされ、興奮冷めやらぬ中、ワカペディアは美味しい食事とスプリッツをたっぷり飲みながら、ふと思った。これが今夜の宴における、(胃の中での)大調和だろうか。そんなくだらないことを考えながら、仲良しのウエイターに声をかけた。

そろそろイタリアの香りがするスプリッツを、もう一杯。

Description & Interview: Sara Waka

Edited by: Wakapedia Japanese Team