1960年にイタリアのパドヴァでトラック運転手の父と清掃員の母の元に生まれたアーティスト、マウリツィオ・カテラン(Maurizio Cattelan)。彼は庭師から料理人、郵便配達員、死体安置所の看護師に至るまで、あらゆる仕事を経験した後、現代アートにおいて最も高く評価されるアーティストの一人となった。彼の挑発的で皮肉な作品は世界的に有名で、ミラノに展示されている中指を立てた大理石の彫刻『L.O.V.E.』や、剥製に見えるほどリアルな馬のオブジェを天井から吊るした『La Ballata di Trotsky』、オークションで1700万ドルで落札されたヒトラーの像『HIM』などがある。

1980年代にミラノに移住した後、30年以上に渡り国内外の主要なギャラリーや国際的に有名な美術館で多くの個展を開催し、ヴェネツィア・ビエンナーレを含む世界中のアートフェアやビエンナーレに参加してきた。2010年には、ワカペディアがインタビューをした写真家のピエルパオロ・フェラーリと共に、画像のみで構成されたポップで挑発的な雑誌TOILETPAPER Magazineを創刊。2017年にはドキュメンタリー作品「Be Right Back」の主役を務めた。

世界中で活躍するカテランは、現在はミラノとニューヨークを拠点にしている。これだけの著名人であれば、プライベートジェットや運転手付きの超高級車を愛用しているのかと思いきや、彼の欠かせない移動手段は「愛車」の自転車だ。ミラノやニューヨークで自転車に乗るスタイル抜群のイケオジを見かけたら、もしかするとカテラン本人かも?!ニューヨークのグッゲンハイム美術館には、彼の象徴的な作品の一つ『AMERICA』と名付けられた18金の便器(しかも実際に使用可能)が展示され、10万人以上の来場者のお尻を優しく包んできたが、イギリスでの展示中に犯行時間約5分で盗まれたことも、メディアを大いに賑わせた。

今や驚異的な価格で取引されているカテランの作品だが、近年で最も話題になったのは、間違いなく「600万ドルのバナナ」だろう。『Comedian』と題されたこの作品は、食用のバナナをなんの変哲も無いグレーのテープで壁に貼り付けただけのもの。この作品が、2024年11月にオークションで600万ドル(今のレートで約8億6千万円)で落札されたのだ。金額もさることながら、なんと落札者は落札後、「ユニークな芸術体験をするため」にこのバナナを食べたらしい!作者に負けるとも劣らないこの奇抜で挑発的な行動は、カテランと同様に、アート作品に対する特別視された価値やつくり上げられた神聖さに疑問を呈し、それを打ち壊すためのものだったのかもしれない。

ワカペディアの見るマウリツィオ・カテラン

綺麗に手入れされたグレーの髪に、イタリア人独特のダンディーさを醸し出す男性。気がつけば、ワカペディアがこのおじさまにお世話になって、今年(2017年)で5年目だ。還暦前のマウリツィオは、50代とは思えないほどエネルギッシュだ!いつも黒か白のスキニージーンズに、派手なスニーカーかブーツを履いている。トップスはきまって、自分でカスタマイズしたシンプルなモノトーンかボーダーのTシャツだ。おそらく、彼と出会う人にとって何よりも印象的なのは、彼のとてつもなく大きい鼻だろう。鼻フェチには触りたくてたまらない鼻だ!小さい目の横には、はっきりとシワが刻み込まれ、そしてヒラガナの(へ)にそっくりな眉をいつも動かしている。小顔なわりに鼻の存在感があるため、写真映りだけを見ると、少々顔が大きいと感じてしまうかもしれないが、実は小顔である。彼のなによりも面白い 所は、その動き方だ。いつもヒョコヒョコと歩き、文字通りよく飛び回っている。そんな彼の動きを見ていると、まるでオモチャの人形に見えて仕方がない。下ネタが大好きな彼は、正真正銘の「大人のオモチャ」なのか!?

誰よりも冗談が好きでずる賢いマウリツィオは、知れば知るほど謎だらけな人物だ。
自分のことを全く話したがらないし、ごくたまに自分の過去について話をしたとしても、それが真実なのかは誰にもわからない。どこか掴めそうで掴めない。だからワカペディアは、この謎めいたイタリア紳士が大好きなのかもしれない。
そんな彼は、年齢や国籍を問わず幅広い影響を及ぼしているイギリスで行われた彼の展示会に足を運んだ、あるイタリア人美大生(Francesco Bocchini)は、剥製のリスが「自殺」をするという作品に衝撃を受ける。動物という無垢な存在に、「自殺」という重いテーマを重ねたマウリツィオのアイデアそしてメッセージに深く考えさせられ、卒業論文のテーマにしたが、その後教授とかなり激しい論争になったという。

また、別の日本人アート関係者(Yuu Takagi)は、「彼のやっている事は世間に許されるのだろうか?」と観客が思わず感じてしまうような作品内容の激しさ、そしてそれを周りに認めさせる彼の強さに惹かれたという。良くも悪くも、彼こそワカペディアが信じる本物のインフルエンサーなのである。

【生でインタビューするのが大嫌いな彼は、インタビューの話をすると必ず逃げようとする。今回も愛用自転車に乗って逃げるところを、ワカペディアは捕まえた!】

ワカペディア: もう、大体どんな逃げ方をするのかお見通しだよ。さあ、今回こそはちゃんとリニューアルしたワカペディアの質問に答えてね!

マウリツィオ:  これから歯医者に行かないと・・・

ワカペディア: 歯医者は昨日行ってたでしょ? さあ、自分の少年時代を話して!

マウリツィオ:  幼い頃の話なんて面白くないよ。そもそも、なんで他人は僕の過去に興味を持つのかな?

ワカペディア: 過去を探れば、その人の事をもっとよくわかると思うからじゃない?いつも自分のことをなかなか話してくれないマウリツィオに、今回一番尋ねたい質問だよ!(笑)

マウリツィオ:  どんな子供だったかなんて、 うっすらとしか覚えてないよ・・・そういえば最近、家に置いてあった14歳から17歳の自分が写っている家族写真を全部処分したんだ。なんで捨てたのか自分でもよくわからないけれど・・・自分の足跡を残したくなかったのかな? それか、あの頃が人生の中でも一番悲惨な時期だったからなのかもしれないね。

ワカペディア: それって、家庭のトラブルが自分の作品に影響するっていう、コンテンポラリーアーティストのお決まりストーリーかな?(笑)

マウリツィオ:  いや違うよ。うちはすごく貧しくて、トイレも家の外にあったし、お風呂も一週間に一回しか入れてもらえなかったけれど 、必要なものは全て揃っていたよ。敬虔なカトリックの家庭で、アートとは全く縁のない環境で育ったんだ。文化に関するものなんて見たことないよ。学校を好きだと思ったことも一度もないし、自分にとっては、学校自体がトラブルの源みたいなものだったんだ。12歳の時には落第、その後高校を中退して、夜間学校に通ったこともあったなぁ。

ワカペディア: マウリツィオは珍しいくらい、人より幅広い分野に興味があるのに、大学には行こうとしなかったの?

マウリツィオ:  いや、実はヴェネツィア大学で建築を学ぼうとして入学した時期があったけど、自分の時間がなくなる事に気づいて、結局行かなかったんだ(笑)。そのかわり、自分が好きなことをして生きるための時間が欲しいと思うようになったんだよ。当時の教育システムは自分にとって良い影響を受けたとは思えないし、その中で学んだことといえば、苦しい環境の中でも生き抜くということだけかな。

ワカペディア: そうだったんだね!その後はどんな仕事をしたの?アートの世界にどうやって踏み込んで行ったのかも知りたいな。

マウリツィオ:  清掃員、警備員、看護師や納棺士としても働いていたけれど、自由の身になりたくて誰かの元で働くことをやめたんだ。 今考えても、あの日は人生で一番幸せを感じた日だ!!その頃、近所に自分のアトリエを構えている人がいて、一人で暮らし始めた頃だったから、お金もないし家に家具もなかった。そこでゴミの焼却所で、色々な材料を集めて家具を作り始めたのさ。

ワカペディア: なるほど! こうして少しずつアートの世界に関わり始めたんだね!ちなみに、一番最初に見たアート関係の展示会はいつ、どんなアーティストだったの?

マウリツィオ: 看護師をやっていた頃だから、二十歳くらいだったかな?ピストレットの展示会をイタリアのパドヴァで見て、 展示されている鏡の中で自分の姿を見た時、自分がまるで鏡の額の中にいるような不思議な感覚だったんだ。彼は鏡を用いてアート作品を作るのだけれど、これが本当に居心地悪くて。でも、逆にそれが引き金となってアートに興味を持ち始めたかな。

ワカペディア: お互い知り合って結構時間が経つけれど、ようやく自分の過去を暴露してくれたね(笑)。次の質問は、マウリツィオが一番答えたがらない質問だよ!(笑)自分のアート作品についての説明をお願いします!

マウリツィオ:  アート作品の意味については、観客に直接答えを与えるよりも、観客に疑問を抱かせる方が好きな事は、君もよく知っているよね?想像力を働かせるほど楽しいものはないんだから(笑)。

ワカペディア: この質問も、またうまく逃げ切ったね(笑)。ちなみに、マウリツィオの皮肉たっぷりなアート作品達はいつも話題になるけれど、アート評論家から一般観衆の私達に至るまで、その作品を見ることによって感情を逆なでしたり、強烈な違和感やネガティブさを与えたりすることがあるよね。あなたにとってアート業界とは、どういう働き・役割を担わなければいけないと思う?

マウリツィオ:  「良い作品」とは、見る人の見方を大きく変えるもので、それを見た瞬間、元の自分には戻れなくなったりするよね。それに「良いアート」とは「残忍さ」さえ恐れることなく発信していくことなのかもしれない。アートの効果的な働きについては、とてもシンプルさ。それは、皆が「見慣れたもの」を「見慣れないもの」にすることだよ。世の中の理不尽さや不条理さを、アーティストは描くんだ。僕たちの日常を見ると、「普通」と呼ばれるものの中に、沢山の「見慣れないもの」が潜んでいる。それを僕らアーティストが人の目に晒すことによって、観客は驚きや嫌悪感、感情を抱くのさ。

ワカペディア: なるほど!そういえばポジティブなのかネガティブなのかは別として、マウリツィオに出会ってから、とにかく私達の人生が大きく変わって、もう元の自分達には戻れないんだよね。それってつまり、私たちにとってはマウリツィオ自身が「良い作品」ってことなんじゃない?(にやり)

マウリツィオ:  (軽やかにスルー)

ワカペディア: ちょっとマウリツィオ!とにかく今日は、色々な質問に答えてくれてありがとう!ミラノは雨だし、この後映画を見に行くのも悪くないね。

マウリツィオ:   映画館で公開されている映画はもうほとんど見ちゃったから、却下だな。それじゃあ何をしたいかって?僕が何を好きかは、君達の想像力にお任せするよ!

ワカペディア: ワカペディア: ・・・・(思わず固まるワカペディア)全員爆笑

Description & Interview: Sara Waka

Edited by: Wakapedia Japanese Team

Foto: Pierpaolo Ferrari

Zeno Zotti@Maurizio Cattelan’s Archive