1979年にトスカーナ州、カステルマルティーニで生まれたエンリコ・バルトリーニ(Enrico Bartolini )氏は、2020年現在、イタリアで最も多くミシュランの星を獲得しているシェフ。10代から叔父のレストランで働き始め、パリやロンドンで経験を積み、イタリアでは、星付きシェフのマッシミリアーノ・アライモ氏の元、自身のスタイルを確立させた。若干29歳で、自身の経営する「ル・ロビニー・ビストロ」がミシュランの星を獲得した後、2010年にはミラノ郊外のレストランを買取し、33歳で2つ目の星を獲得。2016年には、バーとビストロ両者を監修した「エンリコ・バルトリーニ」をミラノに、そして「カジュアル」をベルガモに同時にオープンした。また、トスカーナ地方の高級リゾート・レストランを引き継ぎ、「ラ・トラッテリア・エンリコ・バルトリーニ」と名付けた後、同年9月にはヴェネツィアに「グラム・エンリコ・バルトリーニ」をオープン。更に香港の「スピガ」、ドバイの「ロベルトズ・ドバイ」、そしてアブダビの「ロベルトズ・アブダビ」も運営している。『ミシュラン・イタリア2020』では、ミラノの文化博物館であるMUDEC(Museo della Culture)内にあるレストラン「エンリコ・バルトリーニ」がつ星を獲得しただけでなく、すでにつ星を獲得しているヴェネツィアの「グラム・エンリコ・バルトリーニ」およびトスカーナの「ポッジョ・ロッソ」も2つ星へ昇格し、世界を股にかけるイタリアのトップシェフとして注目されている。

Wakapedia’s Enrico Bartolini

国際的に輝かしい経歴を持つシェフは、バリバリのビジネスマンでお堅い人?それとも、一流モデル達と夜な夜な遊んでる人だったりして?インタビュー前、そんなことを勝手に想像していたワカペディアのテーブルに、スラッとしたシェフが登場した。どこか少年のあどけなさが残るような笑顔を浮かべ、爽やかなイケメンオーラが漂っている。彼は料理への想いを熱く語り始めたかと思えば、突拍子もなく別の話題に話が飛んだり、ミステリアスな話をしつつジョークを披露したりするなど、とても気さくな自由人!

そんな彼だが高校卒業後、ホテル業を学ぶためにロンドン1年間のインターンをし、イタリアに帰国後は、大学で経営学を専攻するという勤勉な一面もある。相手の考えを鋭く観察するだけでなく、自身のセールスポイントや魅せ方を熟知し、決断のタイミングを見逃さずチャンスをつかむ行動力とビジネスマン精神は、この時に培われたのかも?華麗なキャリアを持ちながらも努力を惜しまず、「40歳になってようやく、シェフとしての真のキャリアが始まると思うんだ」と、語るエンリコシェフ。そしてなんとインタビュー執筆中には、トスカーナにある彼のつ星レストラン「ポッジョ・ロッソ」がつ星を獲得したという情報まで飛び込んできた!2021年のきらびやかな幕開けとして、文字通りイタリアナンバーワンのスター・シェフによるインタビューをご堪能あれ!

ワカペディア:エンリコシェフへのインタビューがようやく出来るなんて!元々、3つ星を獲得する前に会うことになっていたけど、パンデミックの影響で予定がだいぶ変わっちゃったからね。でもその間に、さらに多くの星を獲得しただなんて、ますますインタビューに熱が入っちゃう!さぁ、あなたの話を聞かせて?

エンリコ:僕のターニングポイントは、叔父が経営していたトラットリアっていう昔ながらの大衆レストランで、初めて働いた日かな。実は10代の頃、靴の製作や細かい手作業がすごく魅力的で、家族が経営する靴のメーカーで働きたかったんだけど、当時は経営が危機的状況でね。別の分野で挑戦しようと、トスカーナの叔父のレストランで働き始めたんだ。高級料理店ではなかったけれど、地元の人達がワイワイ集まるような場所で、週末には600皿もの注文が入るくらい人気があったよ。キャラメル色に焼きあげられた肉の串焼きや、庭で採れたポルチーニ茸とパセリを使ったフレッシュパスタなんて最高さ。シンプルだけど、本格的なイタリア料理店だったんだ。

ワカペディア:インタビュー開始1分で、もうお腹がペコペコ・・・想像力を掻立てる、良いスタートっていう証拠だね!(笑)

エンリコ:もう?随分早いね(笑)叔父には料理だけじゃなくて、一生懸命働く姿勢も教わったよ。14歳の時、モンテカティーニにあるグランドホテルのキッチンで働き始めたんだ。ずっと働き続けられると思うほど大好きな職場だったけれど、3年後に『君みたいな人がここにいるのは勿体無い。才能を伸ばすために、他の場所に行くべきだ』ってシェフに言われたんだ。すごく胸が痛んだけれど、彼のアドバイスは正しかったな。その後、ホテル学校のコンテストで優勝したことをきっかけに、ロンドンにいたマーク・ページ氏の元でインターンシップをする機会を得たんだ。家を離れるのは大変だったけど、海外での経験を通して、自立することや謙虚でいることの大切さ、他国の伝統料理についても学べたよ。

ワカペディア:そうだったのね!イタリア帰国後は、どう過ごしたの?

エンリコ:フィレンツェの大学で、経済・商業学部に入学したんだけど、パリにいるパオロ・ペトリーニ氏の元で働かないかというオファーをもらったんだ。だから、在学していたのは短期間だね。本物のガストロノミーレストラン(高級レストラン)がどんなものなのかを学んだのは、パリだよ。初めて一人で星付きレストランに行って、ちゃんとした「ディナー」に手持ちのお金を全て費やしたのさ。庶民的な家庭で育ったもんでね(笑)

ワカペディア:実はワカペディアチームも、パリでは貧乏学生だったから、よく「リドル」っていう激安スーパーでユーロ(当時で約260円)のワインを買ってたの!(笑)ところで、よくフランス人のシェフらとは仕事をしていたの?

エンリコ:フランスでは常にペトリーニ氏の元で働いていたけど、経験を積むために、色々なシェフの元に僕をインターン生として送り出してくれたよ。パリでは様々なタイプの料理に出会えたね。その後、今の僕を形成したとも言える、巨匠マッシミリアーノ・アライモ氏と一緒に仕事することができたんだ。2005年に独立したんだけど、沢山借金をして、最初の数年はとてもハードだったな。なんとか耐えて迎えた2009年、僕の30歳の誕生日に、初めてミシュランの星を獲得したんだよ。最高のバースデープレゼントってやつさ。

ワカペディア:若干30歳でつ星を獲得したなんて、さすが!その後の躍進劇は?

エンリコ:翌年には、ロンバルディア州にある「デヴェロ ホテル」のレストランを引き継いだんだ。2013年に2つ星を獲得したんだけど、これをきっかけに、中国ドバイニューヨークからオファーが来るようになったのさ。海外のレストランビジネスは、経済面でもキャリア面でも満足感を感じていたけれど、その反面、イタリアに戻って安定した生活を築きたくなったんだ。そんなある日、ミラノの文化博物館であるMUDEC(Museo della Culture)に足を運んだのさ。それからもう4年!今に至るってわけだ。

ワカペディア:そして新しくレストランを手がけて、つ星を獲得したってわけね。

エンリコ:その通り!ベルガモにレストランをオープンすると同時に、トスカーナ州のリゾート施設「ランダーナ」のレストランを引き継ぐようにと声がかかったんだ。僕の前は、巨匠のアラン・デュカス氏が8年間シェフをしていたから、プレッシャーもあったけれど、挑戦してよかったよ。2016年には、海外も合わせて6ヶ月で7つのレストランをオープンさせたよ。同年の11月にはMUDEC2つ星、ベルガモ1つ星、さらにもうつ星を「ランダーナ」で獲得したんだ。つの星を一気に獲得できて最高に幸せだったけれど、人生で初めての衝撃的な出来事の連続だったから、正直ショック状態でね。ちゃんと地に足をつけておかなきゃと思ったんだ。

ワカペディア:それってつまり、ミシュランの星が更なる星を導いたとも言えるのかな。あまりに連続で獲得しているから、困っちゃうくらいだったりして(笑)

エンリコ:星を獲得できたのは僕自身の力じゃなくて、みんなの努力と細部へのこだわり、そしてサービスの質だと思っているよ。僕にとって重要なのは、ミシュランの星の数よりも、自分がしていることに誇りを持つことだしね。それにしても僕、喋りすぎてるよね?君を退屈させたくないんだよ!(笑)

ワカペディア:そんなことないよ、面白いから大丈夫!(笑)ちなみに、伝統的な料理とコンテンポラリーな料理についてはどう思う?

エンリコ:昔ながらの料理はシンプルで食べやすいから大好きだし、インスピレーションの源でもあるけれど、その先を求めるのであれば、既定の枠を超えて冒険することも必要かなって思う。田舎のおばあちゃんのレシピは心が温まるけれど、残念ながらガストロノミーレストランではそのレシピだけでは十分とは言えないからね(笑)

ワカペディア:確かにね(笑)自身のメニューの中では、どの料理が好き?

エンリコ:最初のロックダウンが終わった後、白トリュフに特化したテイスティングメニューを提供したんだ。その中で大好きなベジタリアン料理は、ブロッコリーがベースになっていて、ヘーゼルナッツ、カブ、白トリュフが混ざっているんだ。ダイナミックな味わいと香りで、まるで「爆弾」って呼べるほどパンチの効いたメニューだよ!(笑)

ワカペディア:どうしよう、お腹が全く鳴り止まない(笑)それじゃあ最後の質問ね。毎日たくさん美味しいものに囲まれているけれど、健康的にスタイルを保つ秘訣は?

エンリコ:それは褒め言葉として受け取るね、ありがとう!(笑)秘訣なんてないけど、ほんの少しのルールとストイックさを保つことかな。朝は運動して、控えめに食べるんだ。日曜日はチートデーにして好きなものを食べてるよ。ワインを飲むし、葉巻も吸うよ。でも平日は白米、ハム、フルーツ、ヨーグルトなど、重くなりすぎない質素な食事を心がけているかな。味覚を疲れさせないようにすること、そして仕事の効率を維持するためにね。

ワカペディア:それは賢明だね!まるで栄養士みたい、なんてね(笑)今日は沢山の美味しいお話、ご馳走様でした!

緊張していたのが一転、シェフと嘘のように打ち解けたところで、レストランを出たワカペディア。国を超えて様々なビジネスを手がけ、自信と向上心に満ち溢れたシェフの笑顔は、ミシュランのどんな星よりも輝いていた。

Description & Interview: Sara Waka

Edited by: Wakapedia Japanese Team