世界的に有名な靴デザイナー、クリスチャン・ルブタンは、1964年にパリで生まれた。エジプトをルーツに持つ彼は、シャネルイヴ・サンローラン、マッドフローズンをはじめとする有名メゾンでフリーランスとして働いた後、27歳の時に自身のブランドを立ち上げる。ルブタンの代名詞、赤い靴底という意味の「レッドソール」は、多くの女性から支持され、黒いヴェルニで覆われた10cmのピンヒール「ピガール」は、ブランドを象徴する靴として長年愛されている。このシューズは、パリ随一の歓楽街であるピガールから名付けられており、キャバレー・ダンサーへのオマージュとも言われている。早期からその才能を開花させたルブタンは、2009年に発表されたジェニファー・ロペスの楽曲、”Louboutins”の題材になるなど、モナコ王室ビヨンセマドンナレディー・ガガをはじめとする多くの著名人に愛用されている。現在は100店舗以上を構えるなど、ブランド発足からわずか30年足らずで、世界のトップブランドに上り詰めた。

ワカペディアの見るクリスチャン・ルブタン

グローバルに展開するブランド、「クリスチャン・ルブタン」のデザイナーであるクリスチャンは、とてつもなく面白い人だ。知り合ってからあまり時間は経っていないが、サラワカが#TheLoubiTestというキャンペーンに出演したことがきっかけで、私たちは彼と知り合った。撮影自体は1日のみだったものの、お茶目で、スタッフに対しても気配りを忘れない彼とは、すぐに打ち解けた。語弊はあるかもしれないが、シビアなパリのファッション業界で活躍しているとは思えないくらい、彼の人柄は親しみやすく、どこか珍しくさえ感じる(笑)。

人懐っこい笑顔が印象的なクリスチャンは、ポジティブで誰にでも優しい。髪は短く整えられ、褐色肌の上にジーンズ生地のシャツを着ていた。腕にトウモロコシの刺繍が入ったスーツを着ていて、まるでおとぎ話から出てきたマジシャンのよう。マジシャンといえば、クリスチャンの口髭や優しい目つきが、ジョルジュ・メリエスを彷彿とさせるのは気のせいだろうか。メリエスは、SFXの元祖とも言える魔法(トリック)映画を生み出し、『月世界旅行』をはじめ500本を超える作品を撮影した、元マジシャンのフランス人映画監督だ。そんなことを勝手に感じたワカペディアだが、世界中の女性達の足だけではなく、心をも虜にしたクリスチャンと会話をする度に、ある思いが湧いてきた。彼は、もしかしてシンデレラの願いを叶えた魔女と同様、セクシーでいたいという女性の願いを叶える魔王なのかも?!エレガントでいながらも、スケールからはみ出るほど豊かな才能を持ったクリスチャン・ルブタンは、まさにワカペディアのインタビューにぴったりな人物だった!

ワカペディア :ボンジュール、クリスチャン!

クリスチャン・ルブタン :アリガト〜〜!!

ワカペディア :クリスチャン、インタビューを始める前から「ありがとう」なの?(笑)それを言うなら、「こんにちは」だよ!

クリスチャン・ルブタン :なんていいオープニング!(笑)コンニチハ、ワカペディアのみんな!

ワカペディア :ごめんね、ちょっとからかっちゃった!でもね、日本人はちゃんと「ルブタン」って発音できるけれど、イタリア人はきちんと発音できない人が多いんだ。だから、クリスチャンも私達のことをからかってもいいよ!(笑)イタリア人があなたのブランドをどう発音しているか、知ってる?

クリスチャン・ルブタン :もちろん知ってるよ!「ロウブテン」でしょ?たまらないよね!(笑)まぁでも、フランス語スピーカーじゃなければ、正しく発音するのは難しいからね。

ワカペディア :それを聞いてホッとしたよ。それにしても未だにサラワカだけは、クリスチャンと一緒に仕事をしたっていうのに、「ルブタン」っていう発音は怪しいんだ。。。彼女が発音していると、ルブタンなのか「ルイ・◯ィトン」なのか、時々わからなくなっちゃうほど!(笑)

ところでクリスチャン、あなたのストーリーを聞かせてもらえる?

クリスチャン・ルブタン :おやおや、そうだったのか!(笑)さぁ、どこから話始めようか?僕が趣味でデザインを始めたのは、12~3歳くらいの時さ。1930年頃のある日、近所にあった(当時)国立アフリカ・オセアニア美術館に行ったんだ。その入り口に、ヒールの真ん中に大きいばつ印が記された看板があったんだ。当時、ヒール部分はメタルでできていたので、古いミュージアムの床を傷つけないように、この看板があったんだ。その時、この禁じられている靴を作りたいと思うようになり、それ以降は取り憑かれたようにデザインし始めたのだけれど、まさかこれが自分の仕事になるだなんて思っていなかったさ。他にも僕はダンスが大好きで、よくバレエを観に行っていたから、ダンサーと仕事をするのが夢だったんだ。トウ・シューズやタップシューズは、なんてロマンチックなんだろうって思っていたよ。

ワカペディア :夢は思っていた以上に叶ったんだね。すごい!ところで、あの有名なレッドソールはどこから来たの?

クリスチャン・ルブタン : 僕は、1991年に最初のブティックをオープンしたんだけど、レッドソールを取り入れたのは1993年になるんだ。その年は、60年代のポップアートをコンセプトにした靴を作っていたのだが、手元に届いた靴のサンプルを裏返した時、黒色の面積が多くて重たい印象だったんだ。その時自分の周りを見回すと、僕のアシスタントが爪に赤いマニキュアを塗っていたのを見て、ハッと思いついたのさ。早速その赤いマニキュアで、靴底を塗りつぶしてみた。それがレッドソールの始まりさ。

ワカペディア : そんな裏話があったんだね!ねぇ、クリスチャン。。。ちょっと告白してもいい?怒らないで聞いて欲しいんだけれど、実はクリスチャン・ルブタンの靴は、すでに別の人がデザイナーをしていると思っていたの。。。

クリスチャン・ルブタン :なんだって?!!!(笑)

ワカペディア :でも、悪い意味じゃないのよ。私たちから見た「クリスチャン・ルブタン」は、世界的に大きく成功した誰もが知っているブランドだから、てっきりココ・シャネルイブ・サンローランみたいに、すごく昔から存在していて、何代にも受け継がれているブランドだと思っていたの。ごめんなさい。ところで、あなたのデザインは、少しサディスティックなコンセプトに影響されていたりするの?

クリスチャン・ルブタン :それはちょっと違うかな。ルブタンというブランドは、確かに黒いヴェルニに包まれている官能的なピンヒール、というイメージがあるかもしれない。でもそれは、僕らが作っているコレクションの一部でしかないんだ。流行の素材や色を入念にリサーチしてデザインするし、ルブタンは、ピンヒールだけではないんだよ。

ワカペディア :私たち、これからはもっとルブタンの靴について勉強するね!ところで、靴を作るためには、どれくらいの時間と人手がかかるの?

クリスチャン・ルブタン :新しいコレクションをデザインするには、だいたい二週間くらいかな。光と気温は、僕のデザイン作りにすごく影響するから、デザインする靴によって滞在場所を変えているんだよ。通常の靴を作るときは、暖かい気候の地域でデザインするけれど、冬用の靴を作るときは、寒い地域でデザインするんだ。それらをパリのアトリエに送ってデザインを完成させた後、イタリアの工場で靴を作るんだ。その期間は必ずイタリアにいて、僕がチェックする。だから一週間半は、イタリアのスイーツや美味しい料理と気候を楽しんでいるというわけ(笑)。職人の数は靴によって違うんだけれど、クラシックなモデルだと、着色担当や仕上げ担当など、約50名の職人が携わっているよ。

ワカペディア :そんなにいるんだね!次イタリアに来る時は、美味しいお店を紹介するから是非連絡してね。私たちの得意分野なの!

クリスチャン・ルブタン :ははは〜、それは嬉しいな!でもミラノもミラネーゼも、僕はちょっぴり苦手かもなぁ(ニヤリ)。

ワカペディア :えっどうして?!それは遠回しに、パリジャン・パリジェンヌ達の方が「優しくて素敵な人」と言いたいのかしら?(笑)

クリスチャン・ルブタン :ははは、確かに僕達パリジャンは少しお高くとまっているように見えるかもしれないけど、「シック」な人達でもあるよ。それは忘れないでね!(笑)

ワカペディア :ユーモアあふれる回答ありがとう(笑)。「シック」な振る舞いといえば、あなたの靴を履く女性は、どう振る舞うのが理想だと思う?

クリスチャン・ルブタン : まずは、僕の靴を履きたいと思ってもらわないとね。それから、愛する素敵な男性と腕を組みながら歩くのもいいよね。

ワカペディア :あなたの靴を履きながら、愛する男性と腕を組んで街を歩くって、きっと多くの女性にとって夢なんじゃないかな。ところで、あなたが考える靴の良さについて教えてもらえる?そして、あなたにとって、女性のどの部分が一番セクシーに感じるかも聞きたいな。

クリスチャン・ルブタン : 靴はとても面白くてね。いつもとは違う靴を履くだけで、その人の動きや振る舞いを変えることができるんだ。君たちも気付いたことはあるかい?背丈や姿勢が変わるのはもちろん、靴は女性に女性らしさや華やかさを与えて、女性そのものを進化させるんだ。そんな僕が女性で一番セクシーさ感じるのは、視線かな。

ワカペディア :なるほど。そうしたら、熱いまなざしであなたに最後の質問をするわね!(ニヤリ)あなたは、自分がデザインした靴で、現代の女性たちにどのような影響を与えたいと思っているの?

クリスチャン・ルブタン :  僕は「影響を与えたい」とは思っていないけれど、僕の靴を履いた時、彼女たちが、自分自身を素直に表現するきっかけになればと願っているよ。ピンヒール、ダンスシューズ、ブーツやサンダルであっても、女性は足元からその日の服装を決めるという話は、しばしば耳にするしね。だからこそ、一足一足がユニークである必要があるし、そこには存在すべき理由があるんだよ。

ワカペディア : クリスチャン、あなたはまるでシンデレラに出てくる優しい魔女、いや、魔王だよ!あなたがデザインする靴は、世界中の女性に夢を与えているね。新しいコレクションが待ち遠しいよ!

クリスチャン・ルブタン :  魔王?!そんな風に言ってくれるなんて、ワカペディアのみんな、グラッツ。。。じゃなくてアリガトウ!!僕、オープニングの時から学んだでしょ?(笑)

ワカペディア :ブラボー!私たちも次会う時には、あなたのブランド名を完璧なフランス語の発音で言えるようにしておくね!(笑)

別れ際のスタジオには、それぞれの笑い声と靴の音が響いた。

Description & Interview: Sara Waka

Edited by: Yurie. N